上 下
1,481 / 1,573

鏡の向こう

しおりを挟む
「鏡の向こう」

夜の部屋で、一人、スマホの画面をぼんやりと眺めていた。通知はあるが、そこに期待していた温かさや親しみは感じられなかった。フォロワーの数は一見すれば豪華な数字だ。クリスチャン会衆の兄弟姉妹、SNSで繋がる12000人以上のフォロワー。しかし、その誰もが彼女にとって「知り合い」に過ぎなかった。特に、家族が保護入院したとツイートしても、反応は薄く、ほんの数件の「いいね」がつくだけ。「大丈夫?」の声もない。

彼女は画面を閉じ、静かな部屋に響く自分のため息を聴いた。誰かと本当に繋がりたい、そう思うたびに、無意識にため息が漏れる。そしてふと、会衆の兄弟姉妹やSNSのフォロワーたちもまた、自分と同じように孤独を抱えているのかもしれないと思った。彼女自身、普段から積極的に声をかけることが少なく、深い話や悩みを共有することもほとんどなかった。知り合いにはなれたけれど、それ以上の絆を築く努力をしてこなかったのだ。

「人は鏡っていうけど、私がその鏡に映しているのは、ただの表面的な関係なのかもね…」と、彼女はぽつりとつぶやいた。気持ちが伝わらないのも、誰かに声をかけられないのも、自分がまず声をかけてこなかったからだろうか。まるで心に何重もの壁を張り巡らせ、自ら孤独を選んでいたように思えてきた。

翌日、彼女は思い切って会衆の集まりに顔を出し、自分から挨拶をしてみた。会衆の兄弟姉妹は少し驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかに笑って応じてくれた。いつも通りの表情の裏に、彼女が知り得なかった悩みや苦労が潜んでいるように見えた。今まで一歩踏み込むことを恐れていた彼女は、少しずつ自分から心を開き始めた。そして、SNSでもただ「いいね」を押すだけでなく、何か一言、心のこもったコメントを添えることを始めた。

その数日後、思いもよらないメッセージが届いた。「最近、君のコメントに救われた気がするよ。ありがとう。」思いがけず差し出されたその言葉に、彼女はほんの少しだけ温かい気持ちが胸の中で広がるのを感じた。彼女が自分から心を開くことで、鏡の向こうにも温かい景色が映るようになってきたのだ。

小さな変化を積み重ねながら、彼女は気づいた。関係を深めるには勇気がいるし、そこには時間もかかる。でも、その一歩が自分と相手との心の距離を縮め、互いに支え合える存在になるための始まりになるのだと。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...