「俺は小説家になる」と申しております

ルシファーの光

「ルシファーの光」

夜が深まり、町の灯りもぼんやりと消えた頃、私は一人、家の屋根に座っていた。冷たい夜風が髪をなびかせ、目の前に広がる星空は、まるで私を誘うかのように美しく輝いていた。その中でもひときわ目を引くのは、明けの明星。金星だ。どこまでも高く、力強く、まるで人々の目を引きつけるかのように、眩い光を放っていた。

だが、その星を見つめるたびに、私は心の中で重い思いを抱える。なぜなら、その星が示すのはただの光ではないからだ。あの星には、私の知らない、そして誰もが語りたくない、深い秘密が隠されている。

「明けの明星」として知られる金星は、かつて「ルシファー」と呼ばれた。ルシファー、それは「光を掲げる者」という意味を持つ言葉だ。光り輝く存在であったその名は、今では悪魔的な意味を持つようになり、堕天使サタンの前の姿として語られている。あの星が私に何を伝えようとしているのか、私はずっと考え続けていた。

「あんなに美しいのに、サタンの星だなんて。」

誰もがそう思うだろう。金星があまりにも輝かしいからこそ、まさにその光が堕天使ルシファーの名を連想させるのだろう。しかし、その美しさには深い悲しみが込められているのだろうか。光があまりにも強すぎると、それが闇に飲み込まれるのは必然的なのかもしれない。私の心は重く沈んだ。

その思いに引き寄せられるように、私は空を見上げる。星々が一つ一つ、何千年も前から語りかけてきた物語を、今も静かに私に語っているかのように感じられた。

ルシファー。かつて神の使者として天の光を司っていたその存在は、自己の栄光を追い求め、最終的には神に背いて堕天した。その堕落の物語は、古代から語り継がれ、時には人々の恐れを生み、時には神への反抗の象徴として重く受け止められてきた。

しかし、もしルシファーがただの悪魔に過ぎなかったのだろうか？ 彼は、光を追い求める者であったと同時に、その光に埋もれてしまうことを恐れていたのではないだろうか。その輝きが彼を引き裂き、闇へと導いたのではないかと私は思う。彼の悲劇は、欲望と誇りによってすべてを失ったことにあったのだろう。

「光を掲げる者」という名前は、無限の可能性を感じさせる。それが人々に希望を与える一方で、その者自身がその光に耐えきれずに崩れ落ちていく様子を想像すると、胸が痛む。

私の目の前に広がる金星は、そのような歴史とともに存在している。私たちが美しいと思うものには、必ず何かしらの代償があるのだと、金星が私に語りかけてくるようだった。その光を見つめていると、同時にその光が持つ暗い側面にも思いを馳せることになる。

「あなたがここにいる理由は、何かを示すためだろうか？」

私は屋根から降り、家の中へと戻った。暖かい室内に足を踏み入れると、空気の違いが心地よく感じられる。金星が見える場所に座り、窓から空を見上げる。星々が静かに輝き、静寂に包まれているその中に、私はあの星を追い続ける意味を探し続けていた。

あの美しさは、光の中に隠された深い暗闇を映し出しているのだろうか？ それとも、単に誰もが目を逸らしたくなるような真実を、私に見せているだけなのだろうか？

私はしばらく窓から星を見つめ、少しだけ微笑んだ。どんなに美しい光であっても、それを守るためにはどれだけの痛みが伴うのだろう。ルシファーの悲劇を考えると、きっとその答えは簡単には見つからない。しかし、それでも私の心の中で、その星を見守ることを誓った。

あの星のように、光を追い求める者が、決して光に圧倒されることなく、希望を持ち続けて歩んでいけるように。