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明けの明星

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「明けの明星」

朝の4時半過ぎ、まだ暗い空にひときわ輝く大きな星があった。その星は、夜空の中で唯一、周囲を圧倒するほど明るく輝いていた。私はふと立ち止まり、その星を見上げた。寒さが体に染みるが、足を進めることなく、しばらくその光を眺めていた。明けの明星だろうか。子どもの頃、母が教えてくれた言葉が蘇る。

「朝の明星は、希望の光だよ。」

あの頃、私はただの星だと思っていたけれど、今はそれが何を意味していたのか、少しだけわかるような気がした。

私が歩いているのは、静かな町の小道だ。まわりはまだ眠っているのか、誰一人としていない。家々の窓からは、わずかな明かりが漏れているが、それも遠くに感じるほど、この場所は深い静けさに包まれている。息を吸い込むと、冷たい空気が胸に広がり、少しだけ目が覚めたような気がした。

その星を見ていると、どこか胸の奥がじんと温かくなる。もしかしたら、この瞬間にこそ、何か大切なことを感じ取っているのかもしれない。過去の出来事が浮かんでは消えていく。小さな町で育ち、平凡な日常を送ってきたけれど、何か物足りない、足りないと思っていた。どこかに答えがあるはずだと信じて、心の中で何度も問いかけていた。

私は一度もその答えを見つけられなかった。だが、この星を見上げていると、それでもよかったと思える気がしてきた。あの頃、母が言った言葉が今も胸の中で響いている。

「希望の光。」

私は長い間、何もできない自分を責めていた。それでも、あの星が、まるで私の心を慰めてくれているように感じた。

急に風が吹き、髪がひと撫でされる。冷たい風が頬を撫でていくのが気持ちよく、思わず深呼吸をした。辺りの木々が揺れ、葉っぱがこすれる音が響く。それもまた、どこか穏やかで、心を落ち着かせてくれる。

星を見ながら歩き続けると、やがて小道の先にひときわ大きな建物が見えてきた。それは、私が住んでいた家だった。昔は何度もこの道を歩いたものだが、今ではほとんど訪れることもなくなっていた。もう長い間、母も父もいない。二人は遠いところへ行ってしまった。家に戻っても、誰も迎えてくれることはない。

それでも、この場所は私にとって特別な意味がある。母がよく言っていた言葉が、今も大切に心に残っているからだ。「希望の光。」 その言葉の意味を少しでも感じ取るために、私はここに戻ってきた。

家の前に立ち、少しだけためらう。でも、星の光が背中を押すように感じて、私は扉を開けた。中はひっそりとしていて、かつての温もりを感じることはなかったが、それでもどこか懐かしく思えた。

私は家の中を歩き回りながら、過去の記憶を辿っていった。リビングの隅には、母が好きだった植物がまだ元気に育っている。あの植物を見ていると、母の優しい微笑みが浮かんできた。父はいつも静かに本を読んでいた。その横顔も、もう思い出にしかならない。

私はふと窓の外を見た。朝焼けが少しずつ広がり、空が明るくなっていくのが見える。あの明けの明星が、今も空に輝いている。希望の光を感じるように、心の中にポッと小さな火が灯ったような気がする。それが何かはわからないけれど、この瞬間を大切にしたいと思った。

外では、鳥の鳴き声が聞こえ始め、朝の訪れを告げている。私はもう一度窓の外を見つめ、深呼吸をした。そして、静かに言った。

「これからは、少しだけ前を向いて歩こう。」

希望の光は、明けの明星だけに限らない。心の中に、それを感じる瞬間があれば、それこそが一番の希望だと気づいた。星の輝きが、これからの私を照らし続けてくれるように思えた。

私はそのまましばらく窓の前に立っていた。朝の光が部屋に差し込み、徐々に世界が目を覚まし始める。夜が終わり、新しい一日が始まる。それが、少しだけ希望に満ちているように感じた。

星は今でも空に輝き続けている。






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