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9歳の壁

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9歳の壁

あれは、夏の終わりのことだった。空は高く、雲が柔らかく浮かんでいた。夏の終わりの匂いといえば、草の匂いと、ほんの少しの湿った土の匂いだろうか。道端に咲いた白い花が、夕日の光を浴びて輝いていた。その日、翔太は9歳の誕生日を迎えた。

翔太は、どこか大人びた顔つきをしていたが、その目はまだ子供らしく、好奇心に満ちていた。彼は目の前に広がる世界が、どんどん広がっていくことを楽しんでいた。だからこそ、何でも自分でやりたい、何でも知りたいと思っていた。その気持ちは、まるで風船のように膨らみ、どこまでも飛んでいけそうだった。

だが、その日、翔太は感じていた。自分が何か、大切なものを失う予感がしていた。

「あれ?」翔太は自分の足元に目を向けると、手を止めた。「これ、何だろう?」

彼が足元で見つけたのは、小さな石だった。その石は、普通の石とは少し違って、丸く滑らかな形をしていて、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。翔太はその石を拾い上げ、じっと見つめた。何か特別なものが込められているような気がした。

その時、翔太の母親が家の玄関から呼びかけた。

「翔太、そろそろお昼ご飯よ!」

「うん、分かった!」翔太は元気よく答えてから、その石をポケットにしまい、家に向かって歩き始めた。

だが、その石を手にした瞬間から、翔太の心に重くのしかかるような気持ちが湧いてきた。それは、何かとても大事なことを失ってしまう予感だった。翔太はそれを自分の中でどうしても言葉にすることができなかったけれど、何かが変わり始めていることは感じていた。

家に着くと、母親がテーブルに用意した料理を運んできた。翔太は椅子に座り、まだ少しモヤモヤとした気持ちを抱えたままで食事を始めた。その日、翔太は少しだけ食欲が落ちていた。普段ならば、もっと食べるはずなのに、何かが心の中で引っかかっていた。

「翔太、どうしたの?食べないの?」

母親が心配そうに尋ねると、翔太は微笑みながら「うん、ちょっとだけ」と答えた。

「それなら、しっかり食べて元気を出さないとね。」母親はそう言って、にこやかに微笑んだ。

しかし、翔太はその笑顔に少しだけ違和感を感じていた。母親はいつも優しく、何でも言ってくれる存在だった。でも、何かが違うような気がした。今まで当たり前だったことが、急に遠く感じてしまうのだ。翔太は9歳という年齢に達したことで、少しずつ大人の世界が見え始めてきたように感じていた。

食事が終わり、翔太は自分の部屋に戻った。部屋に戻った後も、心の中にあったモヤモヤは消えなかった。石をポケットから取り出し、再びその輝きを見つめる。翔太はその石を握りしめた。

「これ、どうしてこんなに大事に感じるんだろう…」

その時、翔太はふと思い出した。自分が9歳になったとき、何かを大きく変えることができる年齢だと感じたこと。9歳という年齢は、子供から大人に一歩足を踏み入れる年齢だと言われている。でも、翔太はそのことを怖いとは感じなかった。むしろ、新しい世界が広がっていることにワクワクしていた。

「でも、それと同時に、何かを失う気がする。」

翔太はその時、心の中で何かがはっきりと分かったような気がした。それは、9歳の壁だった。

翔太は子供時代の終わりと、大人になるための一歩を踏み出す境界線を、直感的に感じ取ったのだ。何か大切なものを守りながら、大人になること。そんな気持ちを胸に秘め、翔太はこれからどう生きるべきかを少しずつ考え始めた。

その日、翔太は自分の部屋の窓から外を眺めた。陽射しが淡く、秋の風が優しく頬を撫でていく。彼はそのまま、しばらく空を見上げていた。そして、心の中で、何か新しいものを見つけたような気がした。

「これからどうなるんだろう…。」

9歳という年齢は、確かに一つの大きな区切りのように感じられる。でも、翔太はその「壁」を乗り越えた後、もっと広い世界が待っていることを信じていた。彼の手の中にある小さな石も、そんな未来を象徴しているように思えた。

翔太はその石を握りしめ、もう一度決意を新たにした。大人になることは怖くない。むしろ、それを受け入れ、これからの自分をもっと素直に生きていこう。そう心の中で誓った。

翔太の9歳という壁は、彼にとっての一つの試練であり、成長の始まりだった。彼の目の前には、これから先に広がる無限の可能性が待っていた。









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