上 下
1,454 / 1,508

開かずの踏切

しおりを挟む
開かずの踏切

静かな町の中心に、古い踏切があった。時折、電車が通るたびに鳴る警報音と、真っ赤な遮断機が上がるのを待つ。だが、この踏切はひとつだけ、いつも不思議だった。どんなに待っても、遮断機が上がらない、開かずの踏切と呼ばれている場所があった。

その踏切の名は、「高見踏切」。町の人々の間では、ただの事故や機械の不調だと思われていたが、誰もその理由を詳しく知らない。特に、電車が通らない時間帯、つまり昼下がりや夜の時間帯には、どこからともなく妙な静けさが漂っていた。

その町に住む田島美咲(たじま みさき)は、そんな踏切の近くにある小さなカフェで働いていた。カフェの窓から見えるその踏切は、彼女の日常の一部となっていた。いつも音もなく、ただ赤いライトが点滅しているだけで、その不気味な雰囲気を漂わせていた。

美咲は一度、その踏切について聞いてみたことがあった。常連客である中年の男性、森田さんに。

「高見踏切、知ってるか?」

森田さんはゆっくりとカップを置いて、しばらく沈黙した。彼の目が一瞬、遠くを見つめたような気がした。

「もちろんだ。あそこは昔から、開かずの踏切と言われてるんだよ。でも、昔はもっと怖い噂があったんだ。」

美咲は少し驚いた。普段は、穏やかな顔をしている森田さんが、あんなに神妙な表情をするとは思わなかった。

「噂って、どんな?」

森田さんは声をひそめて、まるで誰かに聞かれているかのように言った。

「昔、あそこに住んでいた家族が事故に遭ったんだ。家族全員が列車に轢かれたって言う話だ。その後、あの踏切はおかしくなったってな。」

美咲はその話を聞いたとき、寒気が背筋を走った。事故というのは何度も聞いたことがあったが、それが原因で踏切が「開かずの踏切」となったというのは、あまりにも信じがたい話だった。まるで、町に隠された秘密のように感じられた。

「でも、噂だよ。実際に何があったのか、誰もわからない。」

森田さんはそう言って、再びカップを手に取った。美咲はその後、話を続けることなく、静かにカフェの仕事に戻った。

それから数日後、美咲は一人でその踏切の近くを歩くことにした。昼過ぎ、仕事の合間にふと気が向いて、町の端にある踏切を訪れてみることにしたのだ。通り過ぎる人もまばらで、電車の音も聞こえない。

踏切の前に立つと、目の前に広がる光景に、思わず息を呑んだ。遮断機は降りたままで、赤いランプが点滅している。電車が来る気配は全くなく、ただの空き地のように静寂が広がっていた。

「本当に、開かないんだな。」

美咲は自分に言い聞かせるように呟いた。すると、その瞬間、不意に風が吹いて、踏切の音をかき消した。まるで、誰かが近くに立っているかのような気配が漂った。美咲は立ちすくみ、心臓が一瞬高鳴るのを感じた。

その時、突然、踏切が鳴り響いた。警報が鳴り、赤いランプが点滅し始めたのだ。驚いた美咲が振り返ると、なんと列車が近づいてきている。普段ならあり得ないことだが、その列車は見たことがないものだった。黒く重々しい車両が、ゆっくりとこちらに向かって進んでくる。

美咲はその光景に引き寄せられるように踏切の前に立ち尽くした。だが、次の瞬間、列車はすれ違うことなく、まるで消えたように視界から消えていった。音もなく、どこに行ったのか全く分からなかった。

「…何だったんだ?」

思わず声が漏れた。その瞬間、振り返ると、踏切の向こうに立つ一人の人物が見えた。老齢の男性で、真っ黒なコートを着ている。美咲はその人物をじっと見つめたが、その男性は何も言わず、ただこちらを見ていた。

突然、その男性が歩き出した。美咲はその背中を見守りながら、どこか遠くから聞こえる電車の音を耳にした。

「もしかして…」

その時、美咲はすべてが繋がった気がした。この町の秘密、この踏切の謎。何年も前に起こったあの事故、その家族は未だにその場所に縛られているのではないか。あの列車は、ただの列車ではなかったのかもしれない。

美咲は足を踏み出すと、もう一度踏切を見た。そこにはただ、赤いランプが点滅し続けていた。

彼女の心には、答えが見つからないまま、まだその踏切の向こうにある「何か」に対する好奇心が残っていた。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

処理中です...