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春秋花壇

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開かずの踏切

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開かずの踏切

静かな町の中心に、古い踏切があった。時折、電車が通るたびに鳴る警報音と、真っ赤な遮断機が上がるのを待つ。だが、この踏切はひとつだけ、いつも不思議だった。どんなに待っても、遮断機が上がらない、開かずの踏切と呼ばれている場所があった。

その踏切の名は、「高見踏切」。町の人々の間では、ただの事故や機械の不調だと思われていたが、誰もその理由を詳しく知らない。特に、電車が通らない時間帯、つまり昼下がりや夜の時間帯には、どこからともなく妙な静けさが漂っていた。

その町に住む田島美咲(たじま みさき)は、そんな踏切の近くにある小さなカフェで働いていた。カフェの窓から見えるその踏切は、彼女の日常の一部となっていた。いつも音もなく、ただ赤いライトが点滅しているだけで、その不気味な雰囲気を漂わせていた。

美咲は一度、その踏切について聞いてみたことがあった。常連客である中年の男性、森田さんに。

「高見踏切、知ってるか?」

森田さんはゆっくりとカップを置いて、しばらく沈黙した。彼の目が一瞬、遠くを見つめたような気がした。

「もちろんだ。あそこは昔から、開かずの踏切と言われてるんだよ。でも、昔はもっと怖い噂があったんだ。」

美咲は少し驚いた。普段は、穏やかな顔をしている森田さんが、あんなに神妙な表情をするとは思わなかった。

「噂って、どんな?」

森田さんは声をひそめて、まるで誰かに聞かれているかのように言った。

「昔、あそこに住んでいた家族が事故に遭ったんだ。家族全員が列車に轢かれたって言う話だ。その後、あの踏切はおかしくなったってな。」

美咲はその話を聞いたとき、寒気が背筋を走った。事故というのは何度も聞いたことがあったが、それが原因で踏切が「開かずの踏切」となったというのは、あまりにも信じがたい話だった。まるで、町に隠された秘密のように感じられた。

「でも、噂だよ。実際に何があったのか、誰もわからない。」

森田さんはそう言って、再びカップを手に取った。美咲はその後、話を続けることなく、静かにカフェの仕事に戻った。

それから数日後、美咲は一人でその踏切の近くを歩くことにした。昼過ぎ、仕事の合間にふと気が向いて、町の端にある踏切を訪れてみることにしたのだ。通り過ぎる人もまばらで、電車の音も聞こえない。

踏切の前に立つと、目の前に広がる光景に、思わず息を呑んだ。遮断機は降りたままで、赤いランプが点滅している。電車が来る気配は全くなく、ただの空き地のように静寂が広がっていた。

「本当に、開かないんだな。」

美咲は自分に言い聞かせるように呟いた。すると、その瞬間、不意に風が吹いて、踏切の音をかき消した。まるで、誰かが近くに立っているかのような気配が漂った。美咲は立ちすくみ、心臓が一瞬高鳴るのを感じた。

その時、突然、踏切が鳴り響いた。警報が鳴り、赤いランプが点滅し始めたのだ。驚いた美咲が振り返ると、なんと列車が近づいてきている。普段ならあり得ないことだが、その列車は見たことがないものだった。黒く重々しい車両が、ゆっくりとこちらに向かって進んでくる。

美咲はその光景に引き寄せられるように踏切の前に立ち尽くした。だが、次の瞬間、列車はすれ違うことなく、まるで消えたように視界から消えていった。音もなく、どこに行ったのか全く分からなかった。

「…何だったんだ?」

思わず声が漏れた。その瞬間、振り返ると、踏切の向こうに立つ一人の人物が見えた。老齢の男性で、真っ黒なコートを着ている。美咲はその人物をじっと見つめたが、その男性は何も言わず、ただこちらを見ていた。

突然、その男性が歩き出した。美咲はその背中を見守りながら、どこか遠くから聞こえる電車の音を耳にした。

「もしかして…」

その時、美咲はすべてが繋がった気がした。この町の秘密、この踏切の謎。何年も前に起こったあの事故、その家族は未だにその場所に縛られているのではないか。あの列車は、ただの列車ではなかったのかもしれない。

美咲は足を踏み出すと、もう一度踏切を見た。そこにはただ、赤いランプが点滅し続けていた。

彼女の心には、答えが見つからないまま、まだその踏切の向こうにある「何か」に対する好奇心が残っていた。










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