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御使い様召喚記

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御使い様召喚記

「御使い様だ!」

「御使い様が召喚されたぞ!」

「…え?何ここ」

まばゆい光が収まり、気づけば私は見知らぬ豪華な大広間に立っていた。目の前では煌びやかな装いの人々がひざまずき、崇拝のまなざしを向けている。いや、まさかこんな展開になるとは。ついさっき死んだばかりだったというのに、異世界召喚なんて、マンガの中だけの話かと思っていた。

「どうも、こんにちは。私、ついさっき死にました」

とりあえず挨拶してみるが、召喚した連中は私の言葉など意に介さず、敬意のあまりか息を飲んでいる。どこから見ても、この場の中心にいるのは私だ。

「ささ、こちらへ」

ひときわ豪奢な服をまとった年配の男性が、まるで重要人物を扱うかのように手招きしてくる。何やら面倒そうだが、仕方がないので彼について行った。

私が案内されたのは、大理石のテーブルがきらめく豪華な応接室だった。座るとすぐに、使用人らしき者が紅茶やらお菓子やらを運んできた。何がどうなっているのかはわからないが、とりあえずお茶菓子に手を伸ばし、ボリボリと食べ始めた。

「御使い様、まずは感謝を申し上げます。我が国を浄化するために、どうかその力をお貸しください!」

年配の男性が神妙な顔で頭を下げる。

「え、浄化?…っていうか、どうして自分たちでなんとかしないの?」と素直な疑問をぶつけると、彼は少し驚いた顔をした。

「え? いや、我らの力では到底およびませんので…」

お茶菓子を食べながら彼の説明を聞いてみると、この国は「魔素」という悪しきエネルギーで満ちており、これが病気や災害を引き起こしているらしい。その「魔素」を浄化するために、異世界から特別な力を持つ御使いを召喚したとのことだ。

「でもさ、そもそも魔素ってなんで生まれるの?」

「ええと、それは…」

私の質問に、年配の男性は困惑した顔をしている。どうやら原因すらよくわかっていないらしい。話を聞けば聞くほど、この国の問題は根深そうだ。

「じゃあ、まずは魔素がなんで生まれるかくらい調べたら? 適当に召喚しても解決しないでしょ」

彼は再び困惑した顔をしたが、私にはお構いなしだ。引き続きお茶菓子をボリボリ食べていると、だんだんお腹が満たされてきた。

しかし、その瞬間だった。視界が揺らぎ、体が異様に重くなるのを感じた。周囲の人々が不安そうな顔をしてこちらを見つめる中、私の中で何かが目覚める感覚があった。そして、気がつくと、目の前で祈っていた豪華な服を着た年配の男性が、まるで霧のように溶けて消えていったのだ。

「あれ…?」

ぼんやりした頭で辺りを見回すと、周囲の人々が後ずさりし、恐怖に引きつった表情をしている。どうやら私は、さっきの男性を「吸収」してしまったらしい。

「うわ、もしかして、これが私の特別な力…?」

異世界転生でよくある「特殊なスキル」ってやつだろうか。どうやらこの異世界では、私は人間や物を吸収し、力を取り込む能力を持っているらしい。これで何でもかんでも吸収してしまうことができる、と気づいた私は、思わず苦笑いを浮かべた。

「これ、やっちゃったなあ…」

その後、私はお尋ね者になった。どこへ行っても、「御使い様」として尊敬されたかと思えば、その力を恐れられ、追われる存在になってしまったのだ。

私がこの国に召喚されたのは、結局のところ、この地に溢れる魔素を減らすための「浄化」を期待されてのことだったらしい。しかし、国中を歩き回って人を吸収しているうちに、気づけば人口は半分近くまで減っていた。自然と魔素は減り、かつてのような混乱は収まっていったらしいが、私にとっては些細なことだった。

時が経つごとに、この国の人々は私の存在を恐れるようになった。誰かが「御使い様」に攫われて食べられた、などと噂が流れ、やがて「悪いことをしたら御使い様に食べられる」という脅し文句が一般的になっていった。

それから百年、私はその土地の伝説となり、姿を消した。だが、今もどこかで私はこの世界の一部として息づいているのだろう。彼らが私を忘れた頃、再び人々の間に現れ、ひとつふたつと命を吸収しながら生き続ける。

誰も知らない。

世界の隅々まで根を張り巡らせた私が、この世界そのものだということを。









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