「俺は小説家になる」と申しております

ザ・ブルー・マーブル

ザ・ブルー・マーブル

深い青と白の織りなす模様が、彼の視界に広がっていた。それは美しさと儚さを秘めた青の星、地球──「ザ・ブルー・マーブル」とも称される美しき惑星である。宇宙飛行士の佐々木一郎は、国際宇宙ステーションから地球を見下ろしながら、目を細めてその輝きを見つめていた。彼が宇宙で過ごす日々も、あとわずかとなっている。

宇宙に来た当初、一郎は興奮で胸を膨らませていた。だが、宇宙での日々が続くうちに、地球の風景がますます恋しくなり、家族や友人たちと過ごす日々の思い出が頭をよぎることが増えていった。無重力の環境で浮かびながら窓越しに見る地球は、彼にとってただの「遠い場所」ではなく、故郷そのものだった。

「こんなにも美しいのに、地球は今、様々な問題に満ちているのか……」

一郎は、地球のことを思い浮かべた。環境問題、戦争、貧困、そして分断。宇宙から見る地球はひとつの輝く球体だが、その中で人々は互いに争い、境界線で隔てられている。そのことが、彼には悲しくも不思議だった。

ふと、彼は妻から届いたメッセージを思い出した。地上に残された家族と宇宙飛行士との通信は限られているが、数週間前に送られてきたメッセージにはこんな言葉が綴られていた。

「一郎、元気でね。こちらは色々あるけれど、私たちは何とかやってるわ。帰ってきたら、また一緒に散歩したり、お茶を飲んだりできる日を楽しみにしているわ」

妻の言葉は簡素だったが、そこには彼を思いやる気持ちがにじんでいた。彼女もまた、地球で日々を生き抜いているのだと感じ、胸が温かくなった。宇宙での孤独な日々は、一郎にとって新たな視点をもたらしていた。宇宙の壮大さと、人間一人ひとりの存在の小ささと同時に、地球に生きることの貴重さを痛感する瞬間だった。

ある晩、一郎は窓の外を眺めながら小さく呟いた。

「地球はこんなにも青く、美しいんだ。どうして、人間はこの美しい星をもっと大切にできないんだろう……」

その言葉が自分自身への問いかけであることに気づいた。宇宙飛行士として科学技術の先端に携わる彼だが、結局のところ、自分も小さな存在に過ぎない。人一人の力で、地球全体の問題を解決することはできないのだ。だが、一郎は自分にできることを少しでもしたいと思い始めていた。

彼はメモを取り出し、そこに書き付けた。「帰還したら、地球環境を守るための活動に参加すること」。どんな小さなことでも、自分にできることを始めよう、と心に決めた瞬間だった。

宇宙での最終日の朝、一郎は再び地球を見下ろし、その青さを深く刻み込んだ。国境も宗教も関係なく、ただ一つの「家」としての地球。この視点を、地上に戻っても決して忘れないと誓いながら。

そして、彼は地球に戻った。青い星の温かさを実感しながら、彼は新しい一歩を踏み出した。それは小さな一歩かもしれないが、彼にとっては地球を「守る」ための第一歩だった。