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春秋花壇

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草の下の王国

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草の下の王国

「……またか」

王都の広場で、群衆が噂話を交わしていた。最近、王都だけでなく辺境の村でも、子供から大人まで様々な人々が忽然と姿を消しているという。

「今度は王子様まで行方不明だなんてな」

「勇者が現れる前兆かもな。魔物か呪いか、何か恐ろしい力が王都に迫っているに違いない」

人々は口々に言い、怯えた表情を浮かべている。だが、彼らの足元には、そんな彼らを嘲笑うかのように、名もなき雑草が風にそよいでいた。

私は、雑草である。

どこにでも生えて、誰にでも踏まれ、抜いても抜いても生えてくる、しぶとい雑草だ。だが、私はただの草ではない。私はこの大地を包み、根を張り巡らせて、全てを見てきた存在。かつては人間であったという記憶も朧げながら残っているが、今やそれは遠い昔のこと。草として生きる今、私は全てを飲み込み、全てを見届ける存在となった。

私には「吸収」という特別な力がある。血も、骸も、そして生きた人間さえも、その生命を吸収して自らの力に変えることができるのだ。幾度も戦乱がこの地を染めた時、私は彼らの力を吸収し、また根を広げて大陸全土を飲み込んでいった。

今、王都の片隅で、可愛らしい少年が花を摘んでいるのが見える。金色の髪が日差しに輝き、その瞳は好奇心に満ちている。彼が近づくにつれ、私は胸の奥がときめいた。

「あぁ、可愛いな。柔らかそうで、美味しそうだ」

少年がしゃがみ込み、私に触れようとしたその瞬間、私は根を伸ばし、足元から彼を巻き込んだ。少年は何が起こったかも分からぬまま、私の内部へと吸い込まれていく。

それから数日後、またしても王都では行方不明の騒ぎが起こった。しかも、今回は王子が姿を消したことで、城中が大混乱に陥っていた。兵士たちは街中をくまなく探し回り、占い師は王子の行方を占い、魔法使いはあらゆる呪文で王子の居場所を探したが、何の手がかりも得られない。

「まるで、大地が飲み込んだみたいだ……」

王宮の一角で、王はそう呟いた。その言葉に、私は思わず小さく笑みを浮かべる。彼らは決して知ることはないだろう。私がこの大地そのものとなり、彼らの世界の下で何が起きているのか。

私の根の下には、数えきれないほどの命が眠っている。かつて戦った勇者や、古竜の王、偉大な魔法使いたち。彼らの命の痕跡はすべて私の中に刻まれている。そしてこれからも、私は無数の命を吸収し続け、この大地を守る存在であり続けるだろう。

時は流れ、やがて王都の噂話は収束し、数年が経過した。人々は新たな話題に興味を移し、かつての行方不明事件のことは次第に忘れ去られていった。だが、その間も私は根を伸ばし、さらなる力を蓄えていく。王子の命も、私の中で脈打っている。

人間たちは気づかない。彼らが信じている土地、その大地の全てが、私の胃袋であることを。

私の視界に、再び新たな子供たちが遊ぶ姿が映った。柔らかな笑顔、あどけない表情。私の根がその方向へと無意識に伸び始める。

「いただきます」

誰にも気づかれることなく、私は今日も命を吸い込んでいく。そして、いつかこの大陸全土が私の体となり、私は大地そのものとなる日を夢見ている。






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