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棚卸をしよう

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「棚卸をしよう」

日曜日の夕方、香織は自分の小さな雑貨店の奥で在庫の棚卸を始めた。この店は彼女が大学を出てから10年間、ひとりで切り盛りしてきた場所で、手作りのアクセサリーや雑貨を愛情込めて販売している。だが、最近は売り上げが落ち込み、思ったようにお客さんが来ない日が増えていた。今日は定休日なのをいいことに、香織は商品を一つずつ手に取って、棚卸しをしながら考えにふけっていた。

ひとつひとつの品物には、それぞれの物語があった。大学時代の友人がプレゼントしてくれた花瓶、旅先で見つけた手作りのキャンドル、地元の作家が丁寧に作ったペンダント。それらを手にするたびに、香織の心にはあたたかい思い出がよみがえった。

「売り上げを気にするようになってから、この店の意味を見失いかけてる気がするな……」

香織はため息をつきながらつぶやいた。最初は「自分の好きなものを集めた空間を作りたい」という夢から始まったこの店も、年数が経つにつれ、生活のための手段に変わっていった。いつしか新しいアイテムを見つけても、「売れるかどうか」を基準に選ぶようになり、個性が薄れてきた気がしていた。

棚の隅にあった、売れ残りのノートにふと目が留まった。それは香織が自分用に作った試作品で、いつか「店の棚卸し」をしながら新しい発想を記録しようと考えていたものだった。実際には、日々の忙しさに追われてそのノートを開くことはほとんどなかった。

「そうだ、物の棚卸しだけじゃなく、自分の気持ちも整理しよう」

香織はノートを開き、最初のページに「棚卸リスト」と書いた。そして、今までの店に対する自分の気持ちを書き出していくことにした。「商品選び」「お客さんへの対応」「売上の悩み」……。しばらく書き進めていると、次第に彼女がこの店に対して抱いているさまざまな感情が明確になっていった。

「やっぱり私は、この店が好きなんだ」

香織は書き出したリストを見つめながら気づいた。売り上げの心配や経営のプレッシャーに押しつぶされそうになっていたが、根本にあるのはやはり「好き」という気持ちだった。この店を始めた頃の、純粋な喜びを取り戻したい。その思いが香織の中で再び燃え上がった。

翌週、香織は新しい方針で仕入れを行うことに決めた。今度は売り上げや流行に左右されず、自分が本当に「これだ」と感じるアイテムだけを仕入れることにした。久しぶりに訪れたインスピレーションに突き動かされるまま、新しいアイテムを選び、店のレイアウトも大胆に変えた。

その変化が功を奏したのか、店を訪れるお客さんは再び増えていった。常連客も香織の変化に気付き、「最近、店に来るのが楽しいです」と言ってくれるようになった。そして香織は、棚卸しを通じて自分の店に対する愛情を再確認し、新しい一歩を踏み出せたことに心から感謝していた。

「また棚卸ししなきゃ」

香織は自分に微笑んだ。それは物だけでなく、自分の心を整理するための「棚卸し」だった。









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