「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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アルファポリスが重い日

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「アルファポリスが重い日」

「ちょっと、なんでこうなるの?」

真夜中の静まり返った部屋で、千佳は机に肘をつき、苛立たしげにパソコンの画面を睨んでいた。アルファポリスのページが読み込まれず、真っ白な画面に小さなアイコンがくるくる回るだけで、何度更新ボタンを押しても一向に変わらない。

「頼むよ、どうして今夜なんだ…」

千佳はふと、夜の遅い時間にサイトが重くなることがあるとどこかで聞いた記憶を思い出した。しかし、今日という日は特別な日だった。なぜなら、アルファポリスで連載中の小説「月下の約束」が最終回を迎える日だったからだ。連載が始まってから毎晩のように欠かさず読み続けてきたこの小説。物語に惹き込まれ、キャラクターたちの運命に胸を熱くし、涙し、そして今日の夜、ついにその結末を見届ける日がやって来た。

「他のユーザーも、みんな今夜読みに来てるんだろうな…」とつぶやきながら、千佳は少し肩を落とした。きっと他のファンたちもこの瞬間を楽しみに待っていたに違いない。

千佳はスマートフォンを手に取り、同じページにアクセスしようと試みた。しかし、ここでも画面に表示されるのは「応答時間が長すぎます」のメッセージのみ。そうしているうちに、自分の気持ちが徐々に冷めていくのを感じた。毎夜、静かな時間の中で読むことを楽しみにしていたのに、こんな風に結末を前にしてアクセスできないとは。胸の中にふと、虚しさが湧き上がってきた。

「…結局、私にとってこの小説って、ただのデータにすぎないのかな」

千佳は画面から目を逸らし、ふと部屋の隅に積まれた本棚に目をやった。そこには、小さな頃から集めてきたお気に入りの本やマンガが並んでいる。どれも物語の中の世界に魅せられて購入したものばかりで、気に入ったページに付箋を貼ったり、何度も読み返してはボロボロになったページもある。

「そうだよね、データじゃなくて、紙の本だったらこんな心配もしないで済むのに」

千佳はため息をつきつつも、次第に何か別の思いが湧き上がってきた。もしかしたら、今ここでこのままアルファポリスのページが開かなくても、物語の最後にたどり着くことができなくても、それほど悪いことではないかもしれないと思い始めたのだ。

物語は、ただのデータやページを通してだけでなく、自分の中に何かを残してくれるものだ。たとえ結末を知らなくても、千佳の心にはこれまでの全ての出来事がしっかりと刻まれている。時折笑い、涙し、喜びに胸を躍らせた瞬間たちは、今も自分の中に生き続けているのだ。

「そうだ、最後を読めなくても、私の中にこの物語は残ってる」

千佳は、ふと微笑んだ。もしかしたら、これは神様が与えてくれた特別な機会なのかもしれない。彼女は画面を閉じ、机のライトを消して、ベッドに潜り込んだ。そして目を閉じると、自分の中で自然と物語の続きを思い描き始めた。

主人公の少女が旅を続け、たどり着いた最後の場所。彼女はそこで何を見つけ、誰と出会うのか。千佳の頭の中で、次々と映像が浮かび上がってきた。千佳は自分だけの物語を心の中で紡ぎ、いつしか静かに眠りに落ちていった。

翌朝、目が覚めた千佳は、少しだけ不思議な気持ちだった。最後まで読めなかったはずの物語なのに、昨夜描いた続きがまるで本当の結末のように感じられるのだ。結局アルファポリスはまだ重く、アクセスできないままのようだったが、千佳はもう焦る気持ちもなくなっていた。

そして、その日の夜、千佳はふと思い立って、本棚からお気に入りの小説を取り出した。ページをめくり、久しぶりに文字を追ってみると、懐かしい物語が再び彼女を包み込んでいった。

「アルファポリスで読んでた物語も、いつか本になってくれるといいな」

千佳はそう願いながら、再び物語の世界に没頭した。

ネットのアクセスが困難でも、彼女にとって大切な物語はどこか別の場所にずっと生き続けている。それは、紙の本としてだったり、心の中に宿るものだったりするのだろう。データが失われても、千佳の中に刻まれた物語は、決して消えることはない。

千佳はその夜もまた、物語の中で心躍らせながら、静かにページをめくり続けた。
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