「俺は小説家になる」と申しております

明日がある理由

明日がある理由

夏の終わり、街の片隅にある小さなカフェで、17歳の桜は窓際の席に座っていた。彼女の目の前には、冷たいレモネードがグラスに注がれ、氷がカランと音を立てている。外は、明るい日差しが降り注いでいたが、桜の心はどこか陰りを帯びていた。

「桜、また一人で来てるの？」と、友人の花音がドアを開けて入ってきた。彼女はいつも明るく、周りの人を笑顔にする力を持っていた。桜は微笑んだが、その笑顔は本物ではなかった。花音は桜の様子に気づいたのか、心配そうに顔を覗き込む。

「大丈夫？最近、元気ないみたいだけど。」

桜は首を振り、自分の気持ちを言葉にすることができなかった。彼女は、周囲の期待や自分自身の夢と現実のギャップに悩んでいた。勉強や部活、友人関係に疲れていたのだ。

「なんかあったら、いつでも話してね。」花音は優しく言った。桜は少しだけ気持ちが軽くなったように感じた。

その日の午後、桜は帰宅し、自室の窓を開けた。外では、夕焼けが美しく広がっていた。彼女は深呼吸をして、その景色を目に焼き付ける。自然の美しさを感じながらも、心の中には不安が広がっていた。明日があることが、果たして自分にとっての幸せなのか、時々疑問に思うことがあった。

そんなとき、ふと手元の古い日記帳が目に入った。数年前に書いたもので、当時の夢や希望、友人との思い出が詰まっていた。桜はその日記を開き、ページをめくる。自分の心の声を思い出しながら、彼女はかつての自分の夢を見つめ直した。

「世界を旅して、色んな人と出会って、素敵な写真を撮るんだ。」と、そこには書かれていた。その言葉を読み返すうちに、桜の心に小さな火が灯った。明日が来ることが、何かを始めるチャンスであることに気づいたのだ。

翌日、桜は学校の帰りにカメラを持って街を歩いた。公園で遊ぶ子供たち、道端の花、夕焼けに染まる空、すべてが彼女のシャッターを引き寄せた。久しぶりに感じるワクワクとした気持ち。カメラのレンズを通して見る世界は、まるで新しい色彩で満たされていた。

その日、彼女は何枚も写真を撮った。そして、カフェに戻って花音と共に、その写真を見せた。彼女の目が輝き、心からの笑顔がこぼれた。

「これ、すごくいい！桜の才能だよ！」花音が言った。桜はその言葉に勇気づけられ、自分の中にあった夢を再び追いかける決意を固めた。

それからの桜は、毎日少しずつでも写真を撮ることを続けた。学校や友人との時間を大切にしながらも、自分自身の世界を広げるための活動を始めた。明日がある理由は、自分が進む道を選び取ることで見つかるのだと気づいたからだ。

数ヶ月後、桜は自分の作品を展示する機会を得た。初めての経験に心臓が高鳴る。彼女は不安を感じながらも、自分の夢が実現する瞬間を待ちわびていた。

展示会の日、会場には多くの人々が集まった。彼女の写真を見て感動する人、興味を持って話しかけてくる人々。桜は自分が感じた美しさを他の人と分かち合えることに幸せを感じた。自分の心が動くことで、誰かの心にも響くことができる。それが、明日がある理由の一つであると、彼女は実感した。

その日、桜は自分の作品を通じて、明日への希望を見出すことができた。過去の自分と向き合い、新たな一歩を踏み出した彼女の目は、未来を見据えて輝いていた。明日がある理由を、彼女自身が掴んだのだ。