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フルーツバスケットの約束

「フルーツバスケットの約束」

涼子（りょうこ）は、小さな田舎町で幼い頃から家族や友達と毎年恒例の夏祭りを楽しみにしていた。彼女が特に大好きだったのは、祭りで必ず行われる「フルーツバスケット」という遊び。大人も子どもも集まって、笑顔いっぱいのひと時を過ごすその遊びは、彼女にとって夏の象徴だった。

涼子の家では、祖母がいつもフルーツバスケットを取り仕切っていた。大きな籠に色とりどりの果物を並べ、それをみんなに分け与えるのが祖母の役目だった。涼子は小さな頃から、祖母がその籠を大事にしているのを知っていた。籠は代々、家族の宝物として受け継がれてきたものだという。

「この籠はね、家族のつながりを表しているんだよ。果物が色んな形や色をしているように、私たちもみんな違うけれど、一つの家族として一緒にいることが大事なのさ」

祖母はいつもそう言いながら、涼子に微笑んだ。

しかし、その夏、いつもの風景が少し違っていた。祖母は去年に比べて明らかに体力が落ちており、何度も椅子に座って休む姿が目立った。涼子は心配になったが、祖母は「大丈夫」と言って優しく頭を撫でた。

「今年もフルーツバスケット、楽しみだね」と、祖母は言ったが、その声にはどこか力がなかった。

祭りの日が近づくにつれ、涼子の胸には不安が募っていった。祖母の体調が悪化していることは、誰の目にも明らかだった。しかし、涼子は祖母の強い意志を感じていた。毎年のフルーツバスケットの役割を全うしたいという思いが、祖母を支えているのだろう。

祭りの日、涼子は祖母と一緒に町の広場へ向かった。夜風が涼しく、空には大きな満月が浮かんでいた。広場では、すでに多くの人々が集まり、フルーツバスケットの準備が進んでいた。色とりどりの果物が並べられた籠の前で、涼子は祖母と共にその場に立った。

「涼子、今年はあんたがこの籠をみんなに分ける役をやってくれないかい？」祖母が静かに言った。

「でも、おばあちゃんが…」

涼子は言いかけたが、祖母は穏やかに微笑んで涼子の手を握った。

「私はもう、こうしてあんたに教えるだけで十分だよ。あんたならきっと上手にできる。家族のつながりを大事にして、この籠を守っていくんだ」

涼子は祖母の言葉に心を打たれた。ずっと祖母が大切にしてきた役割を、自分が引き継ぐ時が来たのだと感じた。

涼子は、祖母から受け取った大きな籠を両手で抱え、広場に集まった人々に向けて微笑んだ。そして、みんなが輪になって座ると、涼子は果物を一つ一つ手に取りながら、「フルーツバスケット！」と元気よく声を上げた。

ゲームが始まると、笑い声が広場中に響き渡った。大人も子どもも入り混じり、みんなが一緒に楽しむその光景は、まさに涼子が祖母から教わった「家族のつながり」を象徴していた。涼子は、自分がその場の中心に立っていることに気づき、心が温かくなるのを感じた。

祖母は少し離れた場所から、椅子に座ってその様子を静かに見守っていた。涼子が籠をしっかりと抱え、家族や友達と一緒に楽しんでいる姿に、祖母は満足そうに微笑んでいた。

その夜、祭りが終わると涼子は祖母と一緒に帰宅した。祖母は静かにベッドに横たわり、涼子の手を握りながら、「あんたは立派だったよ」と優しく囁いた。

「おばあちゃん、ありがとう。これからも、ずっとこの籠を守っていくよ」

涼子はそう約束した。祖母は微笑んだまま、目を閉じた。

翌朝、祖母は静かに息を引き取っていた。涼子は涙が止まらなかったが、祖母の顔は安らかで、彼女が涼子に託した想いはしっかりと胸に残っていた。

それから数年後、涼子は大人になり、自分の家族を持った。そして、毎年夏になると、祖母から受け継いだ古い籠を手に取り、子どもたちと一緒にフルーツバスケットを楽しむようになった。

その籠は、涼子にとって家族の象徴であり、祖母の愛と教えが詰まった大切な宝物だった。そして、広がる家族や友人たちとともに、涼子はその絆を大切に守り続けていた。

祖母から託された約束は、今でも涼子の心の中で生き続けている。そして、果物のように色とりどりの人生が交わる中で、家族や友達とのつながりが深まる喜びを、涼子は次の世代に伝え続けていくのだった。