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春秋花壇

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深夜のコンビニで

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深夜のコンビニで

真夜中、時計はすでに午前1時を回っていた。外は静寂に包まれ、時折、遠くから聞こえる車のエンジン音だけが耳に入る。そんな夜の街にぽつんと明るく灯るコンビニがある。その光が闇を切り裂くように、ただひとつの目印のようだった。

店内は、昼間の賑やかさが嘘のように静かだった。棚には整然と商品が並び、レジ付近も閑散としていた。深夜の客といえば、サラリーマンやタクシー運転手、あるいは帰りが遅くなった学生たちがちらほら顔を見せる程度だろう。

その夜も、コンビニには客が少なく、店内には一人の女性店員がカウンターの裏で静かに立っていた。彼女の名は美紗(みさ)。派遣として働くこのコンビニの店員だ。美しい顔立ちに、控えめで落ち着いた物腰が印象的な女性だった。

「1時までは二人なんですけど、1時過ぎから6時までは一人です。」

美紗は、レジに立っている客に向かってはんなりとした笑みを浮かべながら、丁寧に答える。その穏やかな話し方が、深夜の静けさと相まって、まるで別の世界にいるかのような錯覚を覚えさせる。客もまた、その柔らかな空気に引き込まれるかのように頷いた。

「そうですか、夜中に一人なんて、大変ですね。危険とかないんですか?」

客は心配そうに尋ねた。美紗は少しだけ首をかしげて、にっこりと微笑んだ。

「日本は平和ですから、大丈夫ですよ。でも、やっぱり深夜に一人は少し寂しいですね。」

その笑みには、どこか切なさが漂っていた。美紗は、常に夜勤を選んで働いていた。日中はほかの仕事を掛け持ちしていて、派遣のコンビニ勤務は夜の空いた時間を埋めるためのものだった。収入のために働き続ける必要があったのだが、彼女にとってこの夜の時間は少し特別なものでもあった。

日中は忙しく、慌ただしい生活の中でほとんど自分の時間がない。だが、深夜のコンビニはそんな喧騒から離れた、彼女にとっては静かな時間だった。たまに入るお客との短い会話も、どこか心地よい。

その夜も、美紗は商品棚の整理を終えて、レジの後ろで少し一息ついていた。目の前のガラスの向こうには、暗い夜の街が広がり、街灯がぽつりぽつりと灯っている。ふと、どこからか通りすがりの猫が現れ、店の前で座り込んでいるのが見えた。

「また、来たのね。」

美紗は微笑んで、その猫を見つめた。毎晩のようにやってくるその猫は、いつも同じ場所でじっと店の外を見つめていた。どこかに飼い主がいるのか、それとも野良猫なのか、美紗にはわからなかったが、彼女にとってその猫は静かな夜の相棒のような存在だった。

しかし、そんな平穏な時間が続く中で、ふと、背後のドアが開いた。深夜に客が来ることは珍しくなかったが、その時の気配は何か違っていた。美紗は振り返ると、男性が一人、ゆっくりと店内に入ってきた。彼の顔は帽子に隠れ、どこか不穏な空気を漂わせていた。

美紗の胸に一瞬、不安がよぎった。深夜の一人勤務。万が一、何かが起これば、すぐに助けを呼ぶことができるだろうか。彼女は心を落ち着け、できるだけ冷静に対応することを心がけた。

「いらっしゃいませ。」

その言葉が、空気を和らげるように静かに店内に響いた。男性は無言のまま、しばらく棚の商品を眺めていたが、やがてレジの前に立った。

「…これ、お願いします。」

彼は小さな袋菓子をカウンターに置いた。特に異常な様子はないが、美紗の警戒心はまだ消えなかった。彼女は慎重に会計を進め、笑顔を忘れずに応対した。

「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」

男性は商品を受け取り、店を後にした。店のドアが閉まると、再び静寂が戻ってきた。美紗は大きく息をついて、安堵の笑みを浮かべた。幸い、何事もなかった。こうして、また一晩が過ぎていく。

美紗は猫がまだ店の前にいるのを確認し、再び作業に戻った。彼女にとって、この深夜の時間は孤独でもあり、同時に自分だけの静かな時間だった。それは、日々の喧騒から解放される瞬間であり、彼女が自分自身と向き合う場所だった。

外の夜は深く、静寂の中でただコンビニの明かりだけが揺らめいていた。






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