「俺は小説家になる」と申しております

カフェの暗闇で

 カフェの暗闇で

「なにしてんだかな～」と大輔（だいすけ）は天井を見上げ、ため息をついた。インターネットカフェの狭いブースに横たわりながら、心の中でつぶやいた。彼のスマホは手元にあったが、バッテリーがほぼ切れかけていた。外での雨音がますます強くなる中、彼はここ数日で増えていくインターネットカフェ代を頭の中で計算していた。

「もう1万円超えそうじゃん…」と彼は小声でつぶやく。会社のシステムエンジニアとして働く大輔だったが、ここ最近、自宅のパソコンが故障してしまったため、自宅では仕事ができず、仕方なくインターネットカフェに通い続けていた。出張費は会社から一部負担されるものの、個人負担が多く、連日通うことで想定外の出費になっていた。

「これじゃあ、生活費が足りなくなる…」と大輔は、頭を抱えた。

自宅のパソコンは、先週急に電源が入らなくなった。最初は大したことないと思い、リセットしたり、ケーブルを確認したりしたが、何をしても直らなかった。彼は修理業者に連絡し、見積もりを依頼したが、修理に時間がかかると言われ、その間、仕事に支障が出ることを恐れてインターネットカフェに足を運んだ。

「さっさと修理頼んでおけばよかった…」

ブースの外からは、他の利用者たちがパソコンのキーボードを打つ音や、ヘッドホンから漏れ聞こえる音楽、時折立ち上がる椅子のギシギシとした音が響いていた。時間は夜の10時を過ぎ、カフェ内の照明も少し暗くなってきていた。

「修理、どうなってるんだっけ？」大輔は修理業者からのメールを確認しようとしたが、スマホのバッテリーはついに完全に切れてしまった。充電器も手元にはなく、このままでは連絡も取れない。

「終わってるかもしれないし、まだかもしれない…まあ、今夜もここで泊まるしかないな」と大輔は諦めたように思った。

それにしても、インターネットカフェでの生活は居心地が悪かった。いつものベッドで寝ることができず、シャワーや食事も限られた環境での生活。彼は一刻も早く自宅に戻りたいと切に願っていた。仕事の進捗は滞っておらず、なんとかやり過ごしてはいるが、心の中にある焦燥感は日を追うごとに大きくなっていく。

カフェの店員がブースの前を通り過ぎ、かすかな挨拶をしていく。大輔は一瞬だけ微笑みを返したが、それも長く続かず、再び自分の考えに没頭した。

「もうちょっと頑張ろう…パソコンが直れば、すぐに元の生活に戻れる…」

翌朝、彼はようやく修理業者からの連絡を受け取った。カフェの充電スポットでスマホを繋げた後、着信履歴を確認すると、昨日の夕方に修理完了の通知が来ていたのだ。

「よかった…」

大輔は急いで自宅に向かう準備を整えた。すぐにカフェを出て、パソコンを受け取りに行き、自宅での生活を再開することを心に誓った。しかし、その思いと裏腹に、彼はふと立ち止まった。パソコンが戻ってくれば、確かにこのカフェ生活は終わりを告げるが、同時にこの不安定で奇妙な自由感も消えてしまうのだ。

「こんなにカフェで過ごすことになるとは思わなかったけど、意外と悪くはなかったな…」

自分のペースで、誰にも邪魔されずに仕事ができるこの場所は、大輔にとってある種の逃避場所だったかもしれない。しかし、それも今日で終わる。彼はため息をつき、カフェの出口に向かって歩き出した。

「やっぱり、自分の家が一番だよな…」

カフェのドアを押し開けた瞬間、冷たい風が彼の顔に吹きつけた。