「俺は小説家になる」と申しております

アメリカン・スクール

アメリカン・スクール

青空の広がる秋の日、私はアメリカの高校の門を初めてくぐった。父の仕事の関係で家族全員がアメリカに移住することになり、私は15歳でアメリカの学校に編入した。学校の名前は「アメリカン・スクール」。何もかもが新しく、言葉も文化も違うこの場所に、私は期待と不安が入り混じった気持ちで立っていた。

校内に足を踏み入れると、目の前には広い芝生のグラウンドやバスケットボールのコートが広がり、いたるところで笑顔で話す生徒たちが見えた。私とは違って、みんな楽しそうに自分の居場所を見つけているように感じた。そんな中、私は緊張して足を一歩踏み出すことすらためらっていた。

最初の出会い

教室に入ると、すでに数人の生徒が集まっていて、互いに話をしていた。私は静かに席に着き、周りの会話を聞こうとしたが、英語が速すぎて理解するのに苦労した。日本の学校では成績も悪くなかった英語が、ここではまるで別の言語に聞こえた。

「君、新しい生徒だよね？」突然、私の隣に座っていた金髪の女の子が声をかけてきた。

「え、あ、はい」と、私はとっさに返事をしたが、言葉がうまく出てこない。

「私はエミリー。君の名前は？」彼女は優しく微笑んでくれた。

「私、あきこ。よろしくお願いします」と日本語交じりで答えると、彼女は「よろしくって何？」と笑いながら聞いた。私はその笑顔に少し安心し、緊張がほぐれた気がした。

エミリーは私にとって最初の友達となった。彼女はとても親切で、私が困っているとすぐに助けてくれた。休み時間になると、彼女は他の友達にも私を紹介してくれた。みんな私のことを「アキコ」と呼び、興味を持って話しかけてくれたが、私の英語力では彼らの会話についていくのは難しかった。

異文化との葛藤

アメリカン・スクールでの生活は、思っていた以上に挑戦的だった。授業内容も全て英語で進められ、先生の話すスピードに追いつくことができなかった。宿題も膨大で、家に帰ってから辞書を片手に毎日何時間もかけて取り組んだ。

さらに、文化の違いにも戸惑うことが多かった。特に印象的だったのは、自由な自己表現の文化だった。アメリカの生徒たちは、授業中でも自分の意見を堂々と発言し、先生と対等に議論していた。それに比べて、私は日本の学校で教わってきた「静かに聞くこと」が正しいと思い込んでいたので、発言することに対して強い抵抗を感じていた。

そんなある日、授業中に先生が「アキコ、君はどう思う？」と私に質問を投げかけた。心臓がドキリとしたが、私はそのまま固まってしまい、何も言えなかった。周りの視線を感じながら、ただ黙って俯くことしかできなかった。

放課後、エミリーが私のところに来て言った。「気にしないで。最初はみんなそうだよ。でも、君の意見をみんな聞きたがってるから、少しずつでいいんだよ」。彼女のその言葉に、私は少し救われた気がした。

恋の始まり

新しい生活に少しずつ慣れてきたころ、私にはもう一つの心の変化が訪れていた。それは、ジョシュというクラスメートに対する淡い恋心だった。

ジョシュは背が高くて、スポーツが得意で、クラスでも人気者だった。彼の笑顔を見るたびに胸が高鳴り、授業中に彼が発言するたびに、なぜか彼のことばかり気になってしまう。

ある日、学校のダンスパーティーが開催されることになった。エミリーが「絶対に行こうよ！」と誘ってくれたが、私は自信がなくて迷っていた。だが、心のどこかでジョシュと少しでも接点を持ちたいという気持ちがあり、勇気を出して参加することに決めた。

パーティー当日、みんなが楽しそうに踊っている中、私は壁際でそっと見守っていた。そんな私に気づいたジョシュが、突然私の目の前に現れた。

「アキコ、踊ろうよ」と、彼が笑顔で手を差し伸べてくれた。

驚きと緊張で体が動かなかったが、エミリーが「行け！」と背中を押してくれた。ジョシュの手を取ると、彼はゆっくりと私をダンスフロアに連れ出した。

その瞬間、周りの喧騒が一瞬静まり返り、私たち二人だけの世界に変わったような気がした。彼の手の温もりが伝わってきて、心臓がドキドキしていた。

「緊張してる？」彼が優しく聞いてきた。

「うん…ちょっとね」と私は正直に答えた。

「大丈夫、俺も初めてだから」と、ジョシュは微笑んでくれた。

その言葉に、私は少しだけ緊張が解けた。音楽に合わせて、ぎこちなくも楽しい時間を過ごした。その夜、私はジョシュともっと話をしたいと思うようになり、彼との距離が少しずつ縮まっていくことを感じた。

未来への期待

それからの日々、ジョシュとの時間は少しずつ増えていった。彼は私の拙い英語にも優しく耳を傾け、笑顔で話してくれた。エミリーや他の友達も一緒に、学校生活が楽しいものになっていった。

異国の地での新しい挑戦はまだ続いていたが、私はもう一人ぼっちではなかった。ジョシュやエミリーと共に過ごす時間は、私にとってかけがえのない宝物となり、未来に対する期待が少しずつ膨らんでいった。

アメリカン・スクールでの生活は、私にとって大きな成長の場となり、そして初めての恋も芽生えた。未来がどうなるかはわからないけれど、今はこの瞬間を大切にしたいと思っていた。