「俺は小説家になる」と申しております

「俺は小説家になる」と申しております

「俺は小説家になる」と申しております

「俺は小説家になる」と言い続けている彼、隆志。彼の夢は、一度聞いただけでは驚かないかもしれないが、その執念には誰もが目を丸くする。幼馴染の私、美咲でさえ、初めて聞いたときにはただ笑って流した。だって、彼は昔から、漫画家、映画監督、科学者など、様々な夢を口にしてきたからだ。けれど、彼が「小説家になる」と言い始めたのは少し違っていた。それは、ただの一過性の夢ではなく、どこか本気で目指しているような覚悟があった。

「また、言ってるよ」
高校を卒業してからもう5年が経つというのに、隆志は変わらない。いや、むしろその決意は年を重ねるごとに強くなっているようだ。私は大学を卒業し、就職して順調に社会人生活を送っているが、彼はまだバイト生活をしながら、空いた時間にせっせと原稿を書いている。

「お前、就職しないの？」と何度も聞いたことがある。しかし、彼の答えはいつも同じだ。「俺は小説家になるから、就職なんて必要ない」

最初は私も呆れていたが、最近では何となく理解できるようになってきた。彼には確かに才能があるのだ。高校の時から授業で書く文章が妙に独創的で、読んでいて面白かった。今思えば、あれが彼の本当のスタートだったのかもしれない。

小説家の現実
しかし、現実はそう甘くはない。彼の書いた作品をいくつか読んでみたが、正直に言えば、まだ商業的な成功には程遠い。ストーリーは面白いものの、文章が荒削りで、読みにくい部分が多い。それに、彼が目指している文学的なスタイルは、現代の読者にはやや重すぎるかもしれない。

「隆志、もう少しエンターテインメント性を考えた方がいいんじゃない？」そうアドバイスしたこともあるが、彼は頑なに首を振った。

「俺は流行を追う気はない。俺が書きたいものを書く。それが認められないなら、それまでだ」

その言葉には、確かに一本筋が通っている。だけど、彼が食べていけるかどうかとなると、また別の話だ。彼は今、昼はコンビニのバイトをして、夜は居酒屋で働きながら、その合間に小説を書いている。家賃もギリギリ払える程度の収入で、贅沢など到底できない生活だ。

支え続ける友情
「どうしてそこまでして夢を追うの？」と聞いたことがある。彼は少しだけ照れくさそうに笑って、こう答えた。

「俺の中に、どうしても書かずにはいられない何かがあるんだ。言葉でうまく説明できないけど、それがある限り、俺は小説を書き続ける。だから、美咲も俺を応援してくれよ」

彼の真剣な眼差しを見ていると、何だか自分まで背筋が伸びるような気がした。応援したいという気持ちは確かにある。それでも、現実的に考えれば、彼がこのまま夢を追い続けて大丈夫なのか、心配になる。だが、彼の強い意思を前にすると、どんな疑問も吹き飛んでしまうのだ。

夢を追い続けるということ
数ヶ月後、彼はようやく新人賞に応募する作品を完成させた。これが隆志にとって初めての本格的な応募だった。彼の顔には自信と期待が混じっていて、まるで勝負の前夜のような緊張感が漂っていた。

「これでダメだったら、どうする？」と冗談交じりに聞くと、彼はいつものように笑い飛ばした。

「また次を書くさ。俺は諦めない。だって、俺は小説家になるって決めたんだから」

そんな彼の姿を見ていると、応援するしかないという気持ちがますます強くなる。私自身も、彼に負けじと自分の仕事を頑張らなければならないと思うようになっていた。彼の夢を支えることが、私にとっても自分自身を奮い立たせる力になっているのだ。

そして運命の日
数ヶ月後、彼から電話があった。久しぶりの彼の声は、どこか落ち着いていて、いつものような元気は感じられなかった。

「美咲、結果が来たよ」

その瞬間、私は何も言えなかった。彼がどれだけ努力してきたか、どれだけこの日を待ち望んでいたかを知っていたからだ。

「…どうだった？」

しばらくの沈黙の後、彼は静かに言った。

「…落選だった」

私は胸が締め付けられるような思いをしたが、何も言えなかった。ただ、彼の気持ちを汲み取りたいという一心だった。

「でもさ」と、彼は突然明るい声で続けた。「次がある。今回の結果は俺にとって一つの経験だ。これからも、俺は書き続ける」

その言葉に、私は不思議と安心した。彼はどこまでも前向きで、どこまでも自分を信じているのだ。そういう姿勢こそが、彼を小説家に導いていくのかもしれない。

彼の決意と私の思い
「俺は小説家になる」という彼の言葉は、単なる夢物語ではない。彼の中にある揺るぎない信念であり、その姿を見ていると、私自身も自分の道を信じて進んでいけるような気がする。

これからも彼は書き続け、私は彼を応援し続けるだろう。たとえ何度失敗しても、彼はその度に立ち上がり、前に進む。その姿こそが、私にとって一番の励ましであり、支えなのだ。

隆志はいつか、小説家になる。そう、私は信じている。彼がそう申しておりますから。