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わたしのあしながおじさん

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わたしのあしながおじさん

さやかは18歳。高校3年生の彼女は、平凡な学生生活を送っていた。友達と笑い合い、将来の進路に悩みながらも、それなりに幸せな日々を過ごしていた。しかし、そんな日常は突然崩れ去った。両親が急に姿を消したのだ。

ある朝、家を出たまま帰ってこなかった両親。携帯電話に何度かけても繋がらず、警察に連絡したものの、有力な手がかりはなかった。さやかはそれでも最初の数日間、両親が帰ってくるのを信じて待っていたが、日に日にその期待は薄れていった。家の食料も底をつき、光熱費の支払いも滞りがちになり、学校に行くことすら難しくなっていた。

「もう、どうすればいいんだろう…」

自分ひとりでは生活を立て直す術がないと悟ったさやかは、次第に絶望感に襲われた。学校の先生や友達にも相談できず、心細さと孤独が増していく。何か手を打たなければ、生きていくことすらできない。そう思った彼女は、最後の手段に出ることを決意した。

ある夜、彼女は歌舞伎町の街に立っていた。見知らぬ街、見知らぬ人々。ネオンが輝く夜の街に、不安と恐怖が募る。けれど、彼女は立ち止まるわけにはいかなかった。今、自分が持っている唯一のもの――「自分の身体」を売る以外、生き残る道がないと思ったのだ。

「私のはじめてを高く買ってもらえたら…」

冷たい夜風に吹かれながら、彼女は自分にそう言い聞かせた。しかし、その決意とは裏腹に、なかなか誰かに声をかける勇気が出ない。しばらく大久保公園のそばで立っていたが、誰も近寄ってこない。

ようやく、30歳過ぎと思われる男性が彼女に近づき、声をかけてきた。

「こんなところで何してるんだい?君、一人?」

その声に、さやかは驚きながらも応じた。男性は落ち着いた雰囲気で、決して強引ではなかった。二人はそのまま近くの喫茶店に入り、テーブル越しに向き合った。

「どうして、こんなことしてるんだ?」

彼女は口を開くのをためらったが、彼の穏やかな目に押され、少しずつ事情を話し始めた。両親が急にいなくなり、食べるものもなくなったこと。生活に困り果てていること。そして、何の頼る先もないこと。

「そうか、大変だったな」

彼は深く頷き、黙って話を聞いてくれた。その態度に、さやかは次第に心を開き、涙があふれてきた。

「でも、こんなことをする必要はない。君にはもっと違う道があるんじゃないか?」

「でも…どうやって生きればいいのか、わからないんです」

彼は少し考える素振りを見せた後、さやかに優しい声で言った。

「君が高校を卒業するまで、俺が面倒を見てやるよ。生活に必要なことはすべて俺が支えるから、安心して勉強を続けてほしい。ただし、条件がある。卒業までこの街に立つのをやめること。それだけだ」

さやかは信じられなかった。この人は一体何者なのか、なぜこんな自分を助けてくれるのか。疑念はあったが、彼の瞳には嘘偽りが見えなかった。そして何よりも、自分にはもう他に選択肢がないと感じていた。

「…本当に、そんなことしてくれるんですか?」

「もちろんだ。君が困っているのを放っておけない。それに、人は誰かに支えられなければ、生きていけないからな」

その言葉に、さやかは少しだけ希望を取り戻した。彼が提示した条件は、彼女にとって難しいことではなかった。もう一度自分の未来を考えるための時間が与えられたのだと感じた。

その日から、彼は定期的にさやかの生活を支え、金銭的な援助を続けてくれた。彼の正体は明かされることはなく、さやかも深くは尋ねなかった。ただ、彼の存在は彼女にとって「見えないあしながおじさん」だった。

やがて、さやかは高校を無事に卒業することができた。彼との約束を守り、歌舞伎町には二度と足を踏み入れなかった。卒業式の日、彼女は手紙を書き、喫茶店のテーブルにそっと置いた。

「あなたのおかげで、私はもう一度立ち上がることができました。ありがとうございます」

それが、彼との最後のやり取りだった。彼の姿を目にすることは二度となかったが、さやかは感謝の気持ちを胸に新しい人生を歩み始めた。

彼女は決して一人ではなかったのだと、今では確信している。






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