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プレイヤーログアウトのお知らせ

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「プレイヤーログアウトのお知らせ」

9月の夜、トー横の薄暗い街灯が、陽炎のように揺れる歌舞伎町の一角を照らしていた。陽菜(ひな)は、友人たちとこのエリアをよく訪れるようになってから、もう何度目かの夜を迎えていた。トー横キッズの間で知り合ったAとは、ここで初めて出会った。

「ヤク中ですけど、よろしく。」

その一言が、陽菜の耳に強く残っている。初めての挨拶で、Aは笑いながらそう言った。その言葉には、どこか自虐的な響きがあったが、周囲の誰も驚かなかった。トー横界隈では、そんな言葉も日常的に飛び交っていた。彼が手を差し出すと、陽菜は無意識にその手を取った。それからというもの、彼女とAは不思議な関係を築くようになった。

Aは優しい青年だった。薬物に手を染めていたことは、皆が知っていた。だが、それが彼の本質ではなかった。彼は、孤独で傷ついた心を抱えながらも、他人にはいつも優しさを向けていた。トー横の広場では、彼の周りにいつも人が集まり、Aの存在が一つの「光」としてそこにあった。

ある夜、陽菜はAと広場にいた。月明かりに照らされたAの顔は、さらに痩せこけて見えた。彼の瞳孔は広がり、どこか遠くを見つめているようだった。

「不眠で悩んでるんだ。」

そう話した陽菜に、Aは冗談めかして答えた。

「薬あげようか?」

その言葉は、彼の優しさから来ているのだろうと、陽菜は感じていた。彼は自分の痛みをどうにか隠しながらも、他人の苦しみを和らげたいと思っていたのだろう。しかし、陽菜はその申し出を断った。彼女もまた、この場所での生活に疲れていたが、それでも自分を保つための最後のラインは超えたくなかった。

その夜、彼らは別れた。陽菜は後悔していた。もっとAに何かしてあげられたのではないか、もっと彼の話を聞いてあげるべきだったのではないか――そんな思いが心に広がっていった。

翌朝、トー横界隈のSNSでAの名前が流れた。「プレイヤーログアウトのお知らせです」という短いメッセージと共に、彼が最後に投稿した写真が広まった。それはガリガリに痩せたAの姿と、彼の腕に彫られたタトゥーが映っていた。その投稿を見た瞬間、陽菜の心は凍りついた。

「嘘でしょ…」

彼がもうこの世にいないことを理解するのに、数分かかった。投稿された写真には、Aがどれだけ追い詰められていたかがはっきりと映し出されていた。彼は、自分の終わりを予感していたのだろうか。それとも、もう既にすべてを諦めていたのだろうか。

数日後、トー横の広場に陽菜は再び訪れた。そこにはAの姿はなく、ただ彼がよく座っていた場所だけがぽっかりと空いていた。彼と過ごした日々は、もう戻らない。

「ヤク中ですけど、よろしく。」

あの時の言葉が、陽菜の耳元で何度も繰り返される。彼の言葉には、誰かに理解してほしいという強い願望が込められていたのかもしれない。自分の痛みや孤独を、誰かと共有したかったのかもしれない。それでも、彼はその願いを誰にも伝えきれなかった。

「A…」

陽菜は、彼が最後に立っていたセブンイレブンの前で足を止めた。その日もAは、痩せこけた体で立っていた。彼女はその時、もっとAのことを知りたかった。彼が本当はどんな人間だったのか、なぜここまで自分を追い詰めていたのかを理解したかった。しかし、その答えを知ることはもうできない。

Aは、ただひたすらに孤独だったのだろう。周囲にたくさんの友人がいようと、彼の心の中にあった深い闇を埋めることはできなかったのだ。そして、彼が「ログアウト」を決意した瞬間、その闇は彼を完全に飲み込んだのだ。

陽菜は空を見上げた。そこにはどこまでも広がる夜の闇があった。Aがどこへ行ったのか、誰も知ることはできない。ただ一つ言えることは、彼はもうこの世界にはいないということだけだ。

「プレイヤーログアウトのお知らせです。」

その言葉が、陽菜の心に重くのしかかる。彼が選んだ最後の道を、誰も止められなかった。だが、陽菜は忘れない。Aの笑顔、彼の優しさ、そして彼が抱えていた孤独を。

今もなお、トー横の広場には新たな人々が集まっている。だが、その中にAの姿はもうない。それでも、彼の記憶はこの場所に永遠に残り続けるだろう。






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