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春秋花壇

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「階段って上るだけじゃないんだね」

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「階段って上るだけじゃないんだね」

夜のビルの中、奈緒はエレベーターの故障で仕方なく非常階段を使って上の階へと進んでいた。暗闇の中、コツコツと響く足音が彼女の不安を煽る。12階建てのビルだが、階段を上り始めてすぐに息が切れ、何度か手すりに手を置き、ため息をついた。

「階段ってこんなに長かったっけ?」

体力的な疲労だけでなく、何か不穏な気配が奈緒を襲い始める。薄暗い非常灯の下、いつもとは違う異様な静けさが、彼女の背中に寒気を走らせた。

6階にたどり着いた時、ふと何かに気づいた。先ほどから、ずっと同じ階を歩いているような感覚がする。6階のプレートが何度も目に入ってくるのだ。足を止め、周囲を見渡すが、どのフロアも見分けがつかない。階数を示す数字以外、すべてが同じだった。

「おかしいな……。ずっと上ってるはずなのに……」

彼女の足は再び6階へと導かれていた。まるでこの場所から出られないかのような錯覚を覚え、軽いめまいがする。焦燥感が膨らみ、携帯を取り出す。だが、電波が途切れていて誰にも連絡が取れない。

その時、下から微かに足音が聞こえてきた。人の気配にほっとしたものの、その足音は規則的でどこか機械的だ。何かに追われているような恐怖心が胸に広がる。奈緒は、急いで階段を駆け上がり始めた。

「上に行けば、誰かいるはず!」

しかし、上れば上るほど足音は近づいてくる。振り返ってみるが、階段の暗闇には何も見えない。それなのに、確かに音は響き続けている。何かが彼女を追いかけている……その思いが膨らむたび、恐怖で足が震えた。

やっとのことで10階にたどり着いた時、ふいに音が消えた。静寂が戻るが、それが逆に不気味だった。何かが変だ。息を整えながら、彼女はゆっくりと後ろを振り返る。しかし誰もいない。

「気のせいだったのかな……」

その瞬間、頭上からガタンと何かが崩れる音が響き渡った。上の階で何かが起きている。胸の鼓動が早まり、奈緒は再び階段を駆け上がる。11階、そして12階へ……しかし、到着した12階は真っ暗だった。非常灯も点いておらず、辺りは静まり返っている。

「ここ、違う……」

恐怖が頂点に達したその時、奈緒はふと視界の隅に奇妙なものを見つけた。階段の隅に何かが転がっている。彼女は慎重に近づき、しゃがみ込む。そこには古びた鍵が落ちていた。

その瞬間、背後から冷たい息が首筋を撫でた。「階段は、上るだけじゃないんだよ……」低く囁く声が耳元で聞こえた。









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