「俺は小説家になる」と申しております

高速道路の伝説

高速道路の伝説

深夜、クルマのエンジン音が響く高速道路の片隅に、一台の古びたミニバンがひっそりと停まっていた。運転席には、車のエアコンが効きすぎてすっかり冷え切った、薄手のスーツを着た中年男、田中が座っていた。助手席には、さほど動かずに座っているビジネスマン、山田がいる。

「田中さん、どうしてこんな夜中に高速道路のパーキングエリアで止まってるんですか？」と山田が不安そうに言った。

「山田くん、君にはまだわからないかもしれないが、ここは伝説のパーキングエリアなんだ」と田中が神秘的な口調で言った。

「伝説？」と山田は困惑した表情を浮かべた。「まさか、こんなところに伝説が？」

田中は神妙な顔で頷きながら、「そう、伝説だよ。ここには一つの謎があるんだ。『最高の夜食が必ず手に入るパーキングエリア』ってね。」と語り始めた。

山田は半信半疑だったが、田中の話を聞いているうちに好奇心がわいてきた。「本当に？」

田中は頷いた。「ただし、夜食を得るには一つの条件がある。それは…このパーキングエリアの近くに現れる珍しい生物を見つけることだ。」

「珍しい生物？」と山田が聞き返した。

田中はにっこりと笑いながら、「そう、珍しい生物。例えば…この辺りには、世界一小さいカメレオンが出没するんだ。見つけられたら、夜食がもらえるというわけさ。」

山田は目を丸くした。「そんな生物、見たことないですよ。どうやって見つけるんですか？」

「それが簡単さ。夜の間にカメレオンの鳴き声が聞こえるはずだ。その音を頼りに探すんだ。」と田中が説明した。

しばらくして、田中と山田は車を降り、暗いパーキングエリアの周りを歩き始めた。周りにはいくつかの自販機と古びたトイレしかなく、まるで神秘的な雰囲気を漂わせていた。

「この辺りに鳴き声が聞こえるの？」と山田が不安になりながら聞いた。

「もちろんさ、しかし…」と田中が言いかけたその時、突然、周囲に不思議な音が響き渡った。「あれ？これが…？」

「これが何ですか？」と山田が耳を澄ました。

田中は音の方に向かって歩きながら、「これが伝説のカメレオンの鳴き声だ。」と自信満々に答えた。

音の源を辿っていくと、まさかの光景が広がっていた。そこには、一台の小型スピーカーが置かれ、鳴き声が流れていた。そしてその近くには、大きな看板が立っており、「ようこそ、伝説のパーキングエリアへ！」と書かれていた。

山田が驚きながら、「これって、もしかして…」

「うん、実は…」と田中が苦笑しながら言った。「このパーキングエリア、伝説を作るために自販機とスピーカーを使っていたんだ。」

「本当に？」と山田が言いながら、周囲を見回す。

その瞬間、自販機から「ポン！」と音がして、カラフルな袋が落ちてきた。袋には「伝説の夜食」と書かれていた。

「これが夜食？」と山田が目を丸くした。

「そうさ。実際の伝説とは、ただのギャグだったんだよ。」と田中が笑いながら言った。

山田は苦笑しながら袋を開けると、中には普通のスナックが入っていた。「これが伝説の夜食か…」

「まあ、そうだね。」と田中が肩をすくめながら言った。「でも、時にはこんなギャグも悪くないだろう？」

二人は笑いながら、自販機のスナックを楽しんだ。夜が明けるころ、彼らは「伝説のパーキングエリア」にまつわる一夜の冒険を笑い話として語り合うことになるとは思ってもみなかった。