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17歳の秋
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「17歳の秋」
秋風が少し冷たく感じられるようになった頃、私は17歳になった。高校最後の秋だというのに、何一つ特別なことは起きなかった。周りの友人たちは部活に打ち込んだり、受験に向けて必死になったりと忙しそうだったけど、私はどこか浮かばない気持ちを抱えて過ごしていた。
ある日、母が私に話しかけた。
「美咲、ちょっと出かけてきてほしいの。おばあちゃんのところに届け物があるのよ。」
おばあちゃんは、私が幼い頃からたくさんの思い出を作ってくれた人だ。母が忙しい時は、よくおばあちゃんの家に預けられた。おばあちゃんの家は少し遠くて、電車を乗り継いで行く必要があったが、あの田舎の匂いと、静かな街並みが私をいつも落ち着かせてくれた。
秋の夕暮れ、私はおばあちゃんの家に向かう電車に揺られていた。窓の外には黄金色の田んぼが広がり、山々は赤や黄色に染まっていた。その景色をぼんやりと眺めながら、ふと、おばあちゃんの優しい笑顔が浮かんだ。
「おばあちゃん、元気かな…」
そんな風に考えているうちに、いつの間にか電車はおばあちゃんの最寄り駅に到着した。降りた途端、懐かしい土の匂いが私を包み込んだ。静かな駅のホームに降り立つと、幼い頃、母と手をつないでここを歩いた記憶が蘇ってきた。
おばあちゃんの家に着くと、玄関のドアが開いていて、家の中から微かな音が聞こえた。
「おばあちゃん?」
声をかけると、台所からおばあちゃんが顔を出した。少し前よりも小さくなった気がするけど、相変わらずの優しい笑顔がそこにあった。
「美咲、よく来てくれたね。」
おばあちゃんは私を迎え入れ、温かいお茶を出してくれた。私たちはしばらく他愛のない話をしていたが、ふとおばあちゃんが遠くを見るように目を細めた。
「美咲、知ってるかい? 私も若い頃は、この季節になるとよく悩んでいたんだよ。」
「悩んでいた…って?」
おばあちゃんがそんな話をするのは初めてだった。
「そうさ。未来がどうなるか不安でね。何が正しいのか、どう生きればいいのかなんて、分からなかった。」
おばあちゃんの言葉に、私は少し驚いた。いつも穏やかで、強いおばあちゃんがそんなことを感じていたなんて、想像もしなかったからだ。
「でもね、ある日気づいたんだ。どんなに悩んでも、結局自分が選んだ道しか歩けないって。だから、少しでも自分が信じられる道を選ぼうって決めたのさ。」
おばあちゃんの話を聞きながら、私は自分自身のことを考えていた。高校生活も終わりに近づき、将来への不安や自分が何をしたいのか分からないまま日々を過ごしている自分がいた。周りと比べて焦るばかりで、何を選んでも間違いのように思えてしまっていた。
「美咲、君は君のペースで大丈夫だよ。」
おばあちゃんのその一言が、心に深く響いた。焦らなくてもいい。自分の道を、自分のペースで進めばいいんだと、少しだけ気持ちが軽くなった。
帰り道、秋風がさらに冷たくなっていたけど、不思議と心は温かかった。おばあちゃんとの会話が、今まで感じていた重荷を少しずつ解いてくれた気がする。
家に帰ると、母がリビングで待っていた。
「美咲、おばあちゃん元気だった?」
「うん、元気だったよ。色々話してくれた。」
母は少し安心したように微笑んだ。
「あのね、おばあちゃんも昔は悩んでたんだって。でも、結局自分で選んだ道を歩くしかないんだって、教えてくれた。」
私がそう話すと、母は少し驚いた表情を見せた。
「そうだったの…おばあちゃん、そんなことを話すなんて珍しいわね。」
母もまた、おばあちゃんの強さに支えられて生きてきたんだろう。家族の中で、私たちはそれぞれの道を進んでいる。でも、どんなに不安でも、必ず誰かが見守ってくれている。そんなことを感じた17歳の秋。
私はこれからも、自分の道を進むだろう。どこへ向かうのかは分からないけれど、おばあちゃんの言葉を胸に、少しずつ、でも確実に歩いていこうと思う。
秋の冷たい風の中で、私は初めて未来に向けての一歩を踏み出した気がした。
秋風が少し冷たく感じられるようになった頃、私は17歳になった。高校最後の秋だというのに、何一つ特別なことは起きなかった。周りの友人たちは部活に打ち込んだり、受験に向けて必死になったりと忙しそうだったけど、私はどこか浮かばない気持ちを抱えて過ごしていた。
ある日、母が私に話しかけた。
「美咲、ちょっと出かけてきてほしいの。おばあちゃんのところに届け物があるのよ。」
おばあちゃんは、私が幼い頃からたくさんの思い出を作ってくれた人だ。母が忙しい時は、よくおばあちゃんの家に預けられた。おばあちゃんの家は少し遠くて、電車を乗り継いで行く必要があったが、あの田舎の匂いと、静かな街並みが私をいつも落ち着かせてくれた。
秋の夕暮れ、私はおばあちゃんの家に向かう電車に揺られていた。窓の外には黄金色の田んぼが広がり、山々は赤や黄色に染まっていた。その景色をぼんやりと眺めながら、ふと、おばあちゃんの優しい笑顔が浮かんだ。
「おばあちゃん、元気かな…」
そんな風に考えているうちに、いつの間にか電車はおばあちゃんの最寄り駅に到着した。降りた途端、懐かしい土の匂いが私を包み込んだ。静かな駅のホームに降り立つと、幼い頃、母と手をつないでここを歩いた記憶が蘇ってきた。
おばあちゃんの家に着くと、玄関のドアが開いていて、家の中から微かな音が聞こえた。
「おばあちゃん?」
声をかけると、台所からおばあちゃんが顔を出した。少し前よりも小さくなった気がするけど、相変わらずの優しい笑顔がそこにあった。
「美咲、よく来てくれたね。」
おばあちゃんは私を迎え入れ、温かいお茶を出してくれた。私たちはしばらく他愛のない話をしていたが、ふとおばあちゃんが遠くを見るように目を細めた。
「美咲、知ってるかい? 私も若い頃は、この季節になるとよく悩んでいたんだよ。」
「悩んでいた…って?」
おばあちゃんがそんな話をするのは初めてだった。
「そうさ。未来がどうなるか不安でね。何が正しいのか、どう生きればいいのかなんて、分からなかった。」
おばあちゃんの言葉に、私は少し驚いた。いつも穏やかで、強いおばあちゃんがそんなことを感じていたなんて、想像もしなかったからだ。
「でもね、ある日気づいたんだ。どんなに悩んでも、結局自分が選んだ道しか歩けないって。だから、少しでも自分が信じられる道を選ぼうって決めたのさ。」
おばあちゃんの話を聞きながら、私は自分自身のことを考えていた。高校生活も終わりに近づき、将来への不安や自分が何をしたいのか分からないまま日々を過ごしている自分がいた。周りと比べて焦るばかりで、何を選んでも間違いのように思えてしまっていた。
「美咲、君は君のペースで大丈夫だよ。」
おばあちゃんのその一言が、心に深く響いた。焦らなくてもいい。自分の道を、自分のペースで進めばいいんだと、少しだけ気持ちが軽くなった。
帰り道、秋風がさらに冷たくなっていたけど、不思議と心は温かかった。おばあちゃんとの会話が、今まで感じていた重荷を少しずつ解いてくれた気がする。
家に帰ると、母がリビングで待っていた。
「美咲、おばあちゃん元気だった?」
「うん、元気だったよ。色々話してくれた。」
母は少し安心したように微笑んだ。
「あのね、おばあちゃんも昔は悩んでたんだって。でも、結局自分で選んだ道を歩くしかないんだって、教えてくれた。」
私がそう話すと、母は少し驚いた表情を見せた。
「そうだったの…おばあちゃん、そんなことを話すなんて珍しいわね。」
母もまた、おばあちゃんの強さに支えられて生きてきたんだろう。家族の中で、私たちはそれぞれの道を進んでいる。でも、どんなに不安でも、必ず誰かが見守ってくれている。そんなことを感じた17歳の秋。
私はこれからも、自分の道を進むだろう。どこへ向かうのかは分からないけれど、おばあちゃんの言葉を胸に、少しずつ、でも確実に歩いていこうと思う。
秋の冷たい風の中で、私は初めて未来に向けての一歩を踏み出した気がした。
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