「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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俺はBULLDOG

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「俺はBULLDOG」

暗い路地裏に一台のバイクが止まり、エンジン音が静かに消えた。重たいブーツがアスファルトを踏む音が響き、革ジャンを羽織った男がゆっくりと歩き出した。顔には深い皺が刻まれているが、瞳は鋭く、誰にも屈しない強い意志が宿っていた。

「これが、俺の最後のチャンスかもしれねぇな……」

男の名前はジョー。昔は「BULLDOG」と呼ばれていた。そのあだ名は、彼の頑固さとまっすぐな生き方からつけられたものだった。喧嘩っ早く、誰にも媚びず、ただ自分の信念だけを貫き通してきた。何度も危ない目に遭いながらも、決して逃げず、真っ直ぐに走り続けた男だ。

だが、最近のジョーは、そんな自分に迷いを感じていた。年齢を重ねるごとに、無鉄砲さは薄れていき、世の中の「普通」に染まろうとする自分がいた。昔の仲間たちは次々と安定した生活を手に入れ、家族や仕事に落ち着いていった。ジョーもまた、同じ道を選ぼうとしていたのかもしれない。

「お前もそろそろリタイアして、落ち着くべきだろう？」

昔の仲間から言われたその言葉が、ジョーの頭の中で何度も響いていた。確かに、安らぎを求めることに憧れがないわけじゃない。しかし、そのたびに心の奥底で何かが引っかかる。「俺はそんな奴じゃないだろ」と、もう一人の自分が叫んでいるようだった。

「リタイアか……」

ジョーは小さく笑った。安らぎに溺れるのは簡単だ。だけど、それは本当の自分を捨てることになる。何もかも投げ出して、ただ楽な道を選んでしまったら、俺は俺でなくなってしまう。そんな自分を想像するたびに、全身が拒否反応を起こした。

ふと、遠くで爆音が響き、ジョーは目を細めた。街の片隅で不良グループが集まっているのが見える。彼らは街の支配者のように振る舞っていたが、ジョーにはわかる。彼らの背後には何もない。ただの虚勢だ。

「俺も、昔はああだったな……」

自分の若い頃を思い出し、少しだけ懐かしさを感じた。けれども、今の自分にはそんな虚勢を張る必要はない。負け犬の遠吠えをするくらいなら、黙って突き進む方がいい。そんなプライドが、ジョーにはあった。

「おい、あんた！」

突然、若者の一人がジョーに声をかけてきた。黒いジャケットを羽織り、鋭い目つきで睨んでいる。彼の後ろには数人の仲間が控えていた。挑発的な態度をとるその若者を見て、ジョーは心の中で苦笑した。

「なんだ、ジジイ。こんな時間にこんなとこで何してんだ？俺たちのテリトリーに無断で踏み込むなんて、命知らずか？」

若者の言葉に、ジョーは静かに首を振った。

「お前らのテリトリー？そいつは面白いな。けどな、俺にはそんなもん関係ねぇ。俺は俺の道を歩いてるだけだ」

ジョーの冷静な言葉に、若者たちは一瞬戸惑ったが、すぐに笑い始めた。

「何言ってんだよ、ジジイ。今の世の中、そんなこと言ってられるのは、若くて力がある奴だけだぜ。あんたみたいなのは、さっさと引退して大人しくしてた方が身のためだ」

その言葉を聞いて、ジョーはゆっくりと前に進み出た。目の前の若者に向かって、まっすぐな視線を投げかける。その瞳には、決して揺るがない強さがあった。

「お前たちに俺の生き方を押し付けるつもりはない。けどな、俺には俺のやり方がある。それが気に食わないなら、勝手にすればいい」

そう言って、ジョーは肩をすくめた。若者たちはその態度にさらに苛立ち、拳を振り上げた。

「ふざけんなよ！お前みたいなやつが、俺たちの邪魔をするな！」

若者の拳がジョーに向かって振り下ろされる瞬間、ジョーは素早く身をかわし、若者の背後に回り込んだ。そして、静かに彼の肩に手を置いた。

「俺はな、無意味な争いはしない。ただ、自分の信念だけは譲れねぇ。それだけだ」

ジョーの低く静かな声に、若者は一瞬身をすくめた。彼の背後にある圧倒的な経験と強さが、彼らの虚勢を簡単に崩していくのを感じたのだ。

「お前たちも、いつか分かる時が来るさ。まっすぐに生きることがどれだけ難しいか、そして、それがどれだけ大事なことか」

ジョーはそう言い残し、再び歩き出した。彼の背中を見送る若者たちは、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。

「俺はBULLDOG……」

ジョーは自分に言い聞かせるように呟いた。まっすぐに走るしかできない。それが俺の生き方だ。何があろうとも、妥協することなく、己の道を貫く。それが、俺の誇りであり、存在意義だった。

街の喧騒が少しずつ遠ざかり、ジョーは再びバイクに跨がった。エンジン音が静かに響き、彼は夜の街へと消えていった。

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