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殺戮の鬼、みるくの覚醒

「殺戮の鬼、みるくの覚醒」

みるくがオンラインゲームの世界で生きるようになってから、どれだけの時間が経ったのだろう。彼女のキャラクター「ミルフィーユ」は、数多くの敵を斬り倒し、その名をとどろかせていた。戦闘回数「92,038回」——その数字が示すのは、彼女がいかに多くの戦いを繰り広げてきたか、そしてどれほどの敵を倒してきたかという事実だった。

「また敵が湧いてきた！この程度じゃ、私を止められない！」

みるくの手は、マウスとキーボードの上を滑るように動く。画面の中でミルフィーユが敵を次々と斬り伏せ、その動きはまるで踊るかのように流麗で美しかった。彼女のキャラクターは、炎の剣を振るい、敵の群れを一瞬で消し去っていく。その姿はまさに「殺戮の鬼」と呼ぶにふさわしかった。

ギルドメンバーたちも、みるくの実力に一目置いていた。彼女の名前が表示されるたびに、仲間たちは安心感を覚えた。どんな強敵が現れても、みるくがいれば倒せない相手などいない、と信じていたからだ。

「みるく、またやってくれたな！このレイドも君のおかげでクリアできた！」

「ほんとに、いつもありがとう。君がいると心強いよ。」

しかし、みるく自身は、そんな称賛の言葉に喜びを感じることは少なくなっていた。むしろ、彼女の心の中には、次第に暗い影が広がっていった。ゲーム内での戦闘が日常化する中で、彼女はふと立ち止まることが増えたのだ。

「私、何をしてるんだろう…」

その問いが心に浮かぶたびに、みるくは自分のキャラクターが倒してきた数え切れないほどの敵の姿を思い出した。敵の顔は見えず、感情も感じられない。ただのデータであり、倒すべき障害に過ぎなかった。しかし、その行為が自分に何をもたらしているのか、彼女は理解できなくなっていた。

ある日、みるくはゲーム内で異変を感じた。いつものように戦闘を繰り返していると、画面に不意に現れたメッセージが彼女を驚かせた。

「累計戦闘回数が9万回を超えました。これ以上の戦闘を続けることは、キャラクターおよびプレイヤーに深刻な影響を与える可能性があります。戦闘を控え、休息を取ることをお勧めします。」

「何これ…」

そのメッセージは、彼女の心に重くのしかかった。9万回を超える戦闘、それがどれだけの時間と労力を費やした結果なのか、みるくは嫌というほど理解していた。彼女の頭の中には、無数の倒された敵の姿がフラッシュバックするように浮かんだ。

「こんなにも…」

みるくは思わず椅子から立ち上がった。自分が何をしてきたのか、その重さが一気にのしかかってきたのだ。彼女はキャラクター「ミルフィーユ」のことを愛していた。だが、その愛は、いつの間にか「殺戮」のためのものへと変わってしまったのではないかという疑念が芽生えた。

その夜、みるくはゲームをプレイせず、ただ天井を見つめて過ごした。彼女の心には、これまで感じたことのない虚しさが広がっていた。敵を倒すことが目的になりすぎて、その先にあるべき「楽しさ」や「仲間との絆」を見失っていたのかもしれない。

次の日、みるくはギルドメンバーたちに言った。

「少しの間、休ませてもらうわ。」

仲間たちは驚きつつも、彼女の決断を尊重した。みるくはパソコンを閉じ、久しぶりに外の空気を吸いに出かけた。太陽の光がまぶしく、風が肌に心地よかった。街を歩くと、見知らぬ人々の笑顔や、自然の美しさに心が和むのを感じた。

「こんな世界もあるんだ…」

みるくはそう思いながら、小さな公園のベンチに腰を下ろした。そして、自分がこれまでゲームの中で感じていたものと、現実世界で感じることの違いを静かに考えた。

「もう一度、ゲームの楽しさを見つけられるかな…」

みるくは思わずつぶやいた。そして、再びゲームを始めるときには、ただ敵を倒すだけではなく、仲間と共に笑い合い、喜びを分かち合えるようなプレイを心がけることを誓った。

その後、彼女は再び「ミルフィーユ」としてゲームの世界に戻ったが、以前のような殺戮の鬼ではなく、仲間と共に冒険を楽しむプレイヤーとして新たな一歩を踏み出していった。