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春秋花壇

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誘惑の罠

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「誘惑の罠」

健二は、都会の喧騒の中で過ごす平凡なサラリーマンだった。毎日のように仕事に追われ、ストレスに疲れ果てた彼は、いつしか心の隙間を埋めるものを求めていた。そんなある日、健二は一軒のバーで美しい女性と出会った。彼女の名は梨香。しなやかな体つきと魅惑的な笑顔で、初対面にもかかわらず健二の心を簡単に掴んだ。

「今夜、もっと一緒に過ごしませんか?」

梨香の誘いに、健二は心を躍らせた。彼女と一緒にいると、仕事の疲れや悩みが全て忘れられるような気がした。二人はバーを出て、タクシーに乗り込み、梨香の指定した高級マンションへと向かった。部屋に入ると、彼女はさりげなくワインを開け、二人で乾杯した。やがて距離は近づき、健二は梨香の温もりに心地よく酔いしれた。

しかし、幸福な時間は長く続かなかった。部屋のドアが突然大きな音を立てて開き、屈強な男が二人入ってきた。彼らは梨香の顔見知りであることを一目で見て取れた。その瞬間、健二は何かが間違っていることに気づいたが、時すでに遅しだった。

「おい、何やってんだ!この女に手を出すとはどういうことだ!」

一人の男が怒鳴りつける。梨香は突然怯えたふりをし、涙を流して訴えた。「この人が無理やり……怖かったの……」

健二は茫然自失となり、言葉を失った。彼女が誘ってきたのに、今度は男たちに責められる立場に変わっていたのだ。健二は冷や汗をかきながら、必死に状況を理解しようとしたが、男たちは一切聞く耳を持たなかった。

「どうしてくれるんだ。俺の女にこんなことをして。お前、訴えられたいのか?」

男の一人が冷たい目で健二を睨みつける。健二は一瞬で理解した。これは美人局、つまり計画された罠だったのだ。しかし、今さらどうしようもなかった。健二は必死に弁明しようとしたが、男たちは聞く耳を持たず、さらに強い口調で責め立てた。

「このまま警察に行くか、それとも金で解決するか。お前に選ばせてやるよ。」

金で解決——その言葉に健二は一縷の望みを見出した。これ以上トラブルを大きくしたくない、ただそれだけの思いで、彼は震える手で財布を取り出した。しかし、男たちは一目見ただけで不機嫌そうに顔をしかめた。

「これだけか?ふざけるな、もっと持ってこい!」

健二は全身が震えていた。今の手持ちでは到底足りない。男たちの要求はさらにエスカレートし、まるでどこまでも追い詰められていくような感覚だった。健二はやむを得ず、近くのコンビニのATMで多額の金を引き出し、男たちに渡すしかなかった。

「これで終わりにしてくれ……頼む……」

男たちは、無表情で金を受け取り、梨香は冷たい目で健二を一瞥しただけで何も言わなかった。彼女の表情は、先ほどの優しさとはまるで別人のようだった。健二は打ちのめされたような気分で、その場を後にした。

その夜、健二は一睡もできなかった。自分の愚かさを痛感し、ただただ虚しさが込み上げてきた。美人局という犯罪の手口にはまったことを、警察に報告する勇気もなく、ただ静かに耐えるしかなかった。

数日後、健二は友人に相談することにした。友人は驚きつつも、冷静に彼の話を聞き、こう言った。「警察に行くべきだよ。お前が悪いわけじゃない。」

しかし、健二は首を横に振った。報復が怖いという気持ちもあったが、それ以上に自分のプライドが許さなかった。何もかも失った気持ちだった。失ったのはお金だけではなく、信頼や自信、そして自分の価値そのものだった。

それから健二は、日常に戻ろうと努力したが、心の中には常に暗い影が付きまとった。仕事にも集中できず、上司からの叱責がさらに重くのしかかった。健二はもう一度、あの夜の出来事を思い出し、悔しさに耐えながらも、前を向いて歩くことを誓った。

人は時に弱さを見せることもある。しかし、その弱さにつけ込む人々がいることを忘れてはいけない。健二は、再び誰かを信じることができる日が来るのだろうか。自分自身に問いかけながらも、彼は一歩ずつ、少しずつ前へ進んでいった。これからは、同じ過ちを繰り返さないように、健二は慎重に生きる決意を新たにしたのだった。










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