「俺は小説家になる」と申しております

宮城くん

宮城くん

宮城翔太は、高校野球界のスター投手だ。強豪校のエースとして甲子園出場を果たし、その実力は全国に知られている。宮城の投球は驚異的で、150キロを超える速球と鋭い変化球で次々とバッターを打ち取っていく。チームメイトも監督も、宮城が投げるときには試合の勝利を確信していた。だが、そんな彼にも一つだけ心配があった。それは、彼の親友であり、チームメイトでもある中村圭太との関係だった。

中村は打撃が得意な選手で、宮城とは対照的に投手ではなくバッターとして注目を集めていた。ホームランを量産し、試合を決める一打を放つこともしばしばあった。宮城と中村のコンビは、まさに攻守のバランスを象徴する存在だった。しかし、中村には野球以外にも夢中になっていることがあった。それは、音楽だった。

「おい宮城、ちょっと聞いてくれよ」
練習後、部室でギターを持っていた中村が宮城に声をかけた。
「またそれかよ。試合が近いんだから、しっかり準備しろって」
宮城はため息をつきながらも、中村のギターの音色に耳を傾ける。
「まぁまぁ、そう固くなるなよ。ほら、これ俺が作った曲なんだ。どう思う？」
中村はにこやかに微笑みながら、ギターの弦を弾き始めた。彼の指先が弦を滑らかに動き、心地よいメロディが部室に響き渡る。その音に、宮城は思わず聞き入ってしまった。

「……いいじゃん。お前、ほんとに才能あるんだな」
宮城が正直な感想を述べると、中村は照れたように笑った。
「ありがとな。でもさ、俺は野球も好きなんだ。けど、音楽も捨てられないんだよ。お前には悪いけどさ」
その言葉に、宮城は少し複雑な表情を浮かべた。中村が野球だけでなく音楽にも情熱を注いでいることは知っていたが、それがどこかチームへの集中を欠いているように感じてしまうのだった。

試合当日、宮城はマウンドに立っていた。緊張感が漂う中、彼は全力で投げ続けた。だが、どうしても中村のことが頭をよぎる。彼は自分と同じように野球に情熱を注いでいるのか、それともどこかで音楽のことを考えているのか。その思いが、宮城の集中力を微かに揺らがせた。

「ストライク！」
審判の声が響き、宮城は気を取り直す。だが、次の打者にヒットを許し、さらに続く打者にはホームランを打たれてしまった。宮城は唇を噛み締め、悔しさを胸に抑え込む。マウンドで肩を落とす彼の姿に、スタンドの応援団も息を飲んだ。

「宮城、次はお前の番だぞ」
試合が終わり、ベンチに戻った宮城に監督が声をかけた。宮城はうなずき、深呼吸をして気持ちを整えた。彼にはまだやるべきことがある。自分の投球を信じて、次の試合に向けて準備をするしかなかった。

その後、宮城は練習に集中し続けた。中村のギターの音が気になることもあったが、自分のすべきことに専念するように心がけた。時折、中村と話をすることもあったが、どこか以前よりも距離を感じてしまう自分がいた。

「宮城、ちょっと来てくれ」
ある日の放課後、中村が宮城を呼び止めた。彼の手には、何かのチケットが握られていた。
「これ、俺のバンドのライブチケットだ。来週の日曜日にやるんだ。お前に見に来て欲しいんだ」
中村の真剣な表情に、宮城は少し戸惑った。
「俺は……試合の準備があるし……」
「頼むよ。俺にとって大事な日なんだ。お前に見て欲しいんだ」
中村の切実な言葉に、宮城は少しの間だけ黙り込んだ。しかし、その目には決意の光が見えていた。

「わかった。行くよ」
宮城はそう答えた。中村の夢に触れてみたいと思ったのだ。自分たちの間にある違いを受け入れ、理解したいと心から思ったのだ。

そして、ライブの日。宮城は観客の中にいた。中村がギターを持ち、バンドのメンバーたちと一緒にステージに立っている。宮城はその姿を見て、改めて中村の情熱を感じ取った。中村の演奏は力強く、彼の持つ熱意が会場全体に伝わっていた。野球とはまた違う、中村のもう一つの姿がそこにあった。

「やっぱりお前はすごいな」
ライブが終わり、宮城は中村にそう声をかけた。
「ありがとう。お前もな、俺にはできないことをやってる。お互い頑張ろうな」
二人は握手を交わし、それぞれの道を歩む決意を新たにした。

宮城は再び野球に集中し、中村も音楽と野球の両立を続けていった。それぞれの興味が異なっていても、互いの道を認め合い、応援し合うことができる。宮城はそう信じていた。そして彼は、次の試合でも全力で投げ続けることを誓った。

チームのエースとして、そして友として。宮城は自分の道を進んでいくのだった。