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柴田善臣の朝

柴田善臣の朝

柴田善臣（しばた よしとみ）は、数十年にわたり競馬界で活躍してきたベテラン騎手だ。その経験と実績は群を抜いており、数え切れないほどのレースで勝利を収めてきた。競馬ファンの間では「ヨシトミ先生」とも呼ばれ、敬愛される存在だった。しかし、最近ではSNSのトレンドワードに上がることが多いが、その内容はどうにも競馬ネタばかりだ。

「また、俺がトレンド入りしてるのか」

朝の厩舎でスマートフォンを手に取り、柴田は苦笑いを浮かべた。スクリーンには「柴田善臣」の文字が並び、タイムラインには彼に関するジョークや面白おかしいコメントが溢れている。「ヨシトミ先生、また土日でトリプルブック！」「先生、また見せてくれたな！」といった声もあれば、「柴田さん、来週は何に乗るの？」といった期待の声も多い。どこか愛情がこもった冗談の数々だ。

「本当に、みんな好き勝手言うよな」

柴田はその声を気にする様子もなく、むしろ楽しんでいるようだった。彼は、若い頃から数多くの馬に乗り、競馬界の表も裏も見てきた。だからこそ、今さら何を言われようと気にすることはなかった。

その日、柴田は次のレースに向けた調教のため、いつものように早朝から厩舎に足を運んでいた。競馬場の朝は冷え込みが厳しく、柴田は吐く息が白くなるのを感じながらも、どこか清々しい気持ちだった。今日は、デビューしたばかりの若い馬に乗る予定だ。まだレースの経験はないが、柴田はその馬にどこか期待を寄せていた。

「おはようございます、柴田さん。今日の調教はどうですか？」

スタッフが声をかけると、柴田はにこやかに頷いた。

「まあ、今日もやるだけだよ。新しい馬だからな、しっかり様子を見てみるさ」

スタッフたちも柴田の姿を見ると、自然と笑みがこぼれる。彼の存在は、厩舎にいる全員にとって心の支えのようなものだった。何十年もの間、彼はこの場所で競馬に向き合い続けてきた。だからこそ、柴田がいるだけで厩舎の雰囲気が落ち着くのだ。

柴田は調教馬に乗り込み、静かにコースに向かった。まだ日は昇りきっておらず、薄暗い中での調教だったが、彼はそんな状況に慣れきっている。馬の背に感じる柔らかな感触、冷たい風が頬を撫でる感覚、すべてが心地よい。柴田は馬のリズムに合わせて軽く手綱を引き、軽快なテンポで走り始めた。

「よし、いい感じだ」

若い馬は思いのほか素直で、柴田の指示にしっかりと応えてくれた。コースを周回するたびに馬は少しずつスピードを上げ、柴田もそれに合わせて細かく指示を出した。競馬は単なる速度の競争ではなく、馬とのコミュニケーションが何よりも大事だ。柴田はそのコミュニケーションの大切さを長年の経験から熟知していた。

調教を終えた柴田は、馬の首を優しく撫でていた。

「よくやったな。これからが楽しみだ」

柴田の言葉に、馬が小さく鼻を鳴らす。どこか会話をしているようなその光景に、周囲のスタッフたちも目を細めた。

調教後、柴田は事務所に戻り、再びスマートフォンを手に取った。相変わらずSNSには彼に関する投稿が続いている。最近では若い騎手たちが次々と台頭してきているが、柴田のようなベテランの存在感は依然として大きい。彼の経験や知識、そして何よりも競馬に対する真摯な姿勢が、多くの人々に支持されているのだろう。

「柴田さん、最近の若い騎手についてどう思いますか？」

記者からのインタビューでそんな質問をされたことを思い出した。柴田はその時、こう答えた。

「若い子たちにはどんどんチャンスを掴んでほしいね。でも、競馬ってのは簡単じゃない。経験が必要だし、何より馬を理解することが大事だ。俺もまだまだ負けてられないよ」

その言葉には、柴田自身の競馬への情熱が滲んでいた。年齢を重ねてもなお、彼は新しいことに挑戦し続けている。トレンドになろうがなるまいが、柴田善臣は変わらない。競馬を愛し、馬を愛し、そして走り続ける。その姿こそが、ファンたちに愛される理由なのだろう。

柴田はスマートフォンをポケットにしまい、ふと笑った。競馬場に吹く風は冷たいが、心は暖かい。どんなに歳を取っても、柴田にとって競馬はやはり特別な場所だった。そして、今日もまたその特別な一日が始まる。柴田はそのことを楽しみにしながら、再び馬たちのもとへと向かった。