「俺は小説家になる」と申しております

想像の中の赤ちゃん

想像の中の赤ちゃん

「一体どうして、こんなことになってしまったんだろう…」

ユリは深くため息をつきながら、夜の街を歩いていた。心の中には、どこか現実とは思えない奇妙な感覚が広がっていた。自分の体調や気持ちがどうにもおかしいと感じていた。もしかしたら、それが全て、先輩との出来事が原因かもしれないという予感があった。

数週間前、ユリは大学の先輩、カズキに待ち伏せされ、思いがけない出来事に巻き込まれてしまった。カズキは彼女にとって憧れの存在であり、最初は優しく接してくれたが、次第に彼の行動は彼女を困らせることが多くなっていった。

その晩、ユリは大学のキャンパスでカズキと偶然出会った。彼は彼女を見て微笑み、「久しぶりだね、ユリちゃん。少し話そうか？」と声をかけた。彼女は、何か特別な意味があるとは思わず、ついその誘いに応じてしまった。

カズキが提案したのは、夜の散歩だった。彼は自分が大学の近くにある公園を見せたいと言い、ユリは興味本位でついていった。しかし、その散歩が思いも寄らない展開を迎えた。

公園の静かな場所で、カズキは突然、ユリを抱きしめた。彼女はその温もりに驚き、どう反応していいかわからなかった。しかし、カズキの態度は次第に情熱的になり、彼女は身動きが取れなくなった。彼の手が触れる度に、心臓が激しく打ち、混乱していた。

カズキが彼女を抱きしめ続けるその瞬間、ユリの心の中で何かが崩れていくような感覚があった。彼の強い腕に包まれながら、彼女は自分がどこにいるのか、何をしているのかを忘れてしまった。

その夜の出来事が引き金となり、ユリは帰宅後、自分の体に異変を感じ始めた。身体の変化、気分の落ち込み、そして何よりも、不安と恐れが彼女を支配した。彼女は自分が妊娠したのではないかと心配するようになった。しかし、彼女はまだカズキとの関係がただの誤解や心の混乱から生まれたものであると理解していたが、その不安が彼女を苦しめていた。

数週間が経ち、ユリは自分の身体の異変を感じ続け、とうとう医師のもとへ行くことに決めた。診断結果は、彼女が身体的には妊娠していないことを示していたが、心の中ではどうにも妊娠しているような感覚が消えなかった。彼女は「想像妊娠」という状態に陥っていたのだ。

医師の説明によれば、想像妊娠は心の状態が体に影響を及ぼすことがあるというもので、ユリの心が過剰に反応していたのだと言われた。彼女の中で、心と体がどこかでリンクしているような感覚があった。

それから数週間、ユリは自分の気持ちと向き合いながら、カズキとの関係も見直すことにした。彼の存在が彼女の心にどのような影響を与えていたのかを理解しようと努めた。そして、彼女は自分自身を取り戻し、心の整理を始めた。

ある日、ユリは再びカズキと会うことに決めた。彼女は彼に対して率直に、自分の気持ちと経験を語ることを選んだ。カズキはその話を聞き、深く反省し、ユリに謝罪の意を示した。

「ごめん、ユリ。僕の行動が君にこんな思いをさせてしまったとは思っていなかった。」とカズキは言った。

ユリはその言葉を受け入れながらも、自分の心の中での変化を大切にし、今後の関係についても考え直すことにした。彼女は自分の気持ちと向き合い、無理に誰かに依存することなく、自分の幸せを見つけることに努めた。

夜の街を歩きながら、ユリはこれからの自分の人生に希望を抱くようになっていた。過去の出来事が彼女に多くの学びをもたらし、彼女自身がどのように成長するかが大切だと感じていた。そして、彼女は新たな一歩を踏み出し、心の中の痛みを乗り越えて、前向きな未来を描くことに決めた。