「俺は小説家になる」と申しております

パッシブスキルで俺は小説家になる

パッシブスキルで俺は小説家になる

「どうしてこんなにうまくいかないんだ…」
夜の静けさの中、俺はパソコンの前でため息をついた。光が漏れないようカーテンを閉じ切った狭い部屋には、書きかけの原稿が画面に映し出されている。もう何度目の修正かもわからない。頭の中にあるアイデアは鮮やかだが、文字に起こすと途端に平凡で退屈なものに成り下がってしまう。

俺は小説家になりたかった。夢を追い続けているのに、どうしても壁を越えられない。賞には落ち、投稿サイトでも読まれることなく、コメントはゼロ。どこかに自分の作品を評価してくれる読者がいるはずだと信じていたが、現実は厳しい。自分の実力が足りないのだろうか？ それとも、何か大事なものが欠けているのだろうか？

「もし…パッシブスキルがあればなぁ…」
ゲームの世界では、パッシブスキルがキャラクターのステータスを底上げし、戦いを有利に進める。しかし、現実の俺にはそんな便利なスキルなんて存在しない。スキルポイントも経験値もない俺は、ただ無力感に打ちひしがれるだけだ。

そんなある夜、不意にパソコンの画面が奇妙に揺れ始めた。ぼやける文字とノイズに目を凝らすと、突然、見覚えのないウィンドウが現れた。

「あなたに『パッシブスキル：文章力向上』が付与されました。」

驚いて目を見開いたが、すぐに悪戯か何かだと思った。だが、メッセージは消えることなく、静かに表示されたままだ。何が起こったのかも分からないまま、俺は試しに文章を打ち込んでみた。

そして驚いたことに、文字が滑らかに溢れ出し、次々と画面に浮かび上がった。頭で考えなくても、指が勝手に動いて、まるで自分の中に溜まっていた感情や思いが解き放たれていくようだった。文章が途切れることなく、まるで水が流れるように自然に紡がれていく。

「これは…すごい…」

書き終えた時には、いつの間にか夜明けが迫っていた。鳥のさえずりが聞こえる中、俺は自分の書いたものを読み返した。いつもは拙さが目立ち、読み直すのも嫌になる原稿が、今度は違っていた。自分が書いたとは信じられないほど、言葉の選び方や物語の流れが自然で、引き込まれるようだった。

「もしかして、本当に…パッシブスキル？」

その日から、俺の執筆はまるで別人のように変わった。アイデアが浮かぶたびにスムーズに文章に落とし込める。かつては悩んでいた構成やキャラクターの描写も、手に取るように理解できるようになった。まるで見えない手に導かれているかのように、俺の作品は次々と形を成していった。

数週間後、俺の投稿サイトのアカウントは急速に人気を集めるようになった。フォロワーは増え、コメント欄には感想や励ましの言葉が溢れていた。「次の話が待ち遠しい」「この物語に救われました」——そんなメッセージに、俺は思わず涙をこぼした。

「やっと…やっと届いたんだ…」

次第に、俺の作品はサイト内でも話題になり、ついには出版社からのオファーも届いた。俺はそのメールを見て、信じられない気持ちでいっぱいだった。小説家になりたいと願い続けていたのに、現実になるとは思ってもいなかった。夢に見ていたものが、今、目の前に広がっている。

しかし、そんな俺にも一つだけ気がかりなことがあった。あの謎のウィンドウから始まったパッシブスキルが、どうして自分に与えられたのか、その理由がまったく分からないのだ。ウィンドウが再び現れることもなく、スキルが消えることもなかった。それでも、俺は怖かった。もしこのスキルが消えたら、俺はまた元の無力な自分に戻ってしまうのではないかと。

その不安を拭えぬまま、俺は日々執筆を続けた。新たな作品は次々と読者に受け入れられ、ついにはデビュー作が書店に並ぶ日がやってきた。発売日、書店に足を運んだ俺は、自分の名前が書かれた本を手に取った。夢にまで見た光景が、今ここに現実として存在している。胸が高鳴り、涙が滲んだ。

「これが…俺の…」

パッシブスキルが与えてくれたこの奇跡に、俺は心から感謝していた。だが同時に、俺は決意していた。もしスキルが消えたとしても、今の自分ならきっとやれる。もう迷うことはない。俺には、夢を掴むための力が備わっているのだから。

自分自身の努力と、見えない力に支えられながら、俺は次の物語を紡ぎ続ける。誰かに届くことを願いながら、パッシブスキルという奇跡に感謝しながら。そして、俺の物語はまだまだ続いていくのだろう。夢を追いかける限り、限界はない。スキルが消えても、俺は小説家であり続ける。それが、俺の誓いだ。

「パッシブスキルで俺は小説家になる——いや、もうなったんだ。」

そして俺はまた、画面に向かい、物語の続きを書き始めた。