「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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弱さの中で強さを全うする

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弱さの中で強さを全うする

俺の名前は拓也。小さな町工場で働く、ただの平凡なサラリーマンだ。高校卒業後、夢も希望も特にないまま地元の会社に就職し、気がつけばもう30歳を迎えていた。毎日がルーチンのように過ぎていく。朝起きて、仕事に行き、帰ってきて寝るだけの生活。そんな俺に、特別な何かなんて存在しないと思っていた。

しかし、そんな平凡な日々がある日突然崩れた。会社の業績が悪化し、リストラの波が俺の部署にも押し寄せてきたのだ。俺は真っ先にそのリストに名を連ねられた。理由は「影が薄いから」「特に優れたスキルがないから」。要するに、いなくても困らない人材ということだ。

「ごめんね、拓也さん。でも会社も厳しくて…」

上司は申し訳なさそうな顔をして言ったが、俺はその言葉を素直に受け入れることができなかった。情けなさと悔しさが心の中に渦巻き、何も言えずにその場を去った。リストラを受け入れたその瞬間から、俺は何もかもが無意味に思えてきた。家に帰っても、冷たい空気だけが漂っていた。

リストラされてからの毎日は、まるで穴に落ちたような感じだった。朝起きる理由も見つからず、ベッドの中でただ時間を潰すだけの日々。仕事を失ったことで、俺は自分の存在意義さえ見失っていた。友達も、家族も、誰も俺を助けてくれることはなかった。いや、俺が求めなかっただけかもしれない。

ある日、そんな虚無の中でふとテレビをつけた。そこには、体の不自由な少年が一生懸命にリハビリをする姿が映し出されていた。生まれつき足が動かない彼は、毎日何時間もリハビリに励み、歩けるようになるために努力していた。その姿を見たとき、俺は自分がどれほど恵まれていたのかを思い知らされた。

「俺は…何をしてるんだ?」

自問自答しながらも、答えはすぐには見つからなかった。でも、少年の姿に触発され、何かを変えなければと思うようになった。自分の弱さを受け入れることができない俺にとって、その一歩はとても大きなものだった。だが、その一歩を踏み出さなければ何も変わらないということも、同時に理解していた。

次の日、俺は久しぶりにスーツを着て、ハローワークに向かった。慣れない手つきで履歴書を書き、数社に面接を申し込んだ。面接官の前で緊張しながらも、自分の弱点を正直に話した。自己PRの欄には「特に取り柄はありません」と書いたが、それでも俺は嘘をつかずに、自分を見つめ直すことができた。

面接の帰り道、俺は初めて少しだけ自分を誇りに思った。失敗してもいい、無職でもいい、でも俺はもう逃げない。そう決意したのだ。弱さを隠して強がるのではなく、弱さの中で強さを見つける。それが俺の選んだ道だった。

ある企業の面接で、若い女性の面接官が俺にこう尋ねた。

「あなたの強みは何ですか?」

俺は一瞬戸惑ったが、深呼吸をしてから静かに答えた。

「俺の強みは、弱さを認めて進むことです。正直、自分には特別な才能やスキルはありません。でも、どんなに小さな一歩でも、諦めずに進んでいくことだけはできます。」

面接官は少し驚いたような表情をしたが、やがて微笑んでうなずいた。

「その姿勢は素晴らしいと思います。ぜひ、次のステップに進んでいただきたいです。」

その時、俺は初めて自分の弱さが強さに変わる瞬間を感じた。周りの人に認められることよりも、自分自身が自分を認めることの大切さに気づいたのだ。

その後、俺はその会社に採用されることになった。給料は以前よりも少し下がったが、それでも俺は満足していた。新しい職場では、まだ不安も多いが、少しずつ仕事に慣れていった。何よりも、自分の弱さを否定せず、それを糧にする生き方ができるようになったのが何よりの成果だった。

夜、仕事を終えて家に帰ると、リビングのテレビにはまたあの少年が映っていた。彼は今もリハビリを続けているらしい。歩けるようになったわけではないが、その笑顔には確かに強さがあった。

「俺も頑張るよ」

そうつぶやいて、俺は明日のために早めにベッドに入った。眠りにつく前、少年の姿が目に浮かんだ。彼の笑顔は俺にとって何よりの励みだった。弱さを認めることが強さになる。俺は弱いままでも、強くあり続けることができるんだと信じていた。

そして、俺は決して完璧にはなれないが、それでも前に進み続けることを選んだ。弱さと強さは表裏一体。弱いからこそ見える景色がある。弱いからこそ生まれる強さがある。それを忘れずに、俺はこれからも生きていく。たとえつまずいたとしても、その度に立ち上がり、また一歩を踏み出していく。










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