「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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止まらない言葉たち

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止まらない言葉たち

朝から晩まで、私の息子の口は止まることがない。彼の名前は翔太、まだ小学4年生だが、その口数の多さと話の内容の濃さは大人顔負けだ。彼の話し方は、まさに「弾丸トーク」という言葉がぴったり。家でも学校でも、誰とでも絶え間なく会話を繰り広げている。

「ママ、聞いてよ!」と、翔太が朝食のテーブルに飛び込んできた。目はキラキラと輝き、口元にはいつものいたずらっぽい笑顔。私はコーヒーを一口飲みながら「どうしたの?」と尋ねた。

「昨日ね、友達のケンタと公園でサッカーしてたら、すごいことが起こったんだよ!僕がシュートを打ったらね、ボールがぐるぐる回って、まるで竜巻みたいに飛んでったの!で、そのボールがケンタの足に当たってさ、バランス崩して転んじゃったんだ。でも、そのとき、実はケンタが転んだ場所にはお菓子の袋があってさ、それを拾ったらなんと中から…」

彼の話はノンストップで続く。まるで一つの話題から別の話題へ、全く息継ぎすることなく移り変わる様子は、見ていても圧倒されるばかりだ。息子の弾丸トークを聞いていると、まるで自分が映画のシーンを早送りで見ているような気分になる。

「でも、もっとすごいことがあるんだよ!」と翔太は言葉を続ける。私は微笑んで頷きながら、話の続きを待つ。

「そのお菓子の袋には、実は謎の地図が入っていて、それを見ていたら急に空が暗くなって…」

翔太の話はどんどんエスカレートしていく。私が途中で口を挟む暇もない。彼の世界では、毎日が冒険で、ありとあらゆることが事件に発展するのだ。学校でも同じらしく、先生からは「翔太くんはとてもお話が好きですね」と苦笑いされるほどだ。

その日の夕方、家に帰ると、翔太はまだ元気に話していた。彼は今度はおばあちゃんを相手に、自分の「宇宙探検」の物語を披露している。おばあちゃんは微笑みながら聞いているが、時折うんざりしたような顔も見せる。

「翔太、少し休んだら?」と私は声をかけた。翔太は一瞬だけ考え込んでから、「うん、でもね、ママ、次はもっとすごい話があるんだよ!」とすぐに続けた。

その夜、夕食を食べている間も、翔太は途切れることなく話を続けた。父親の晃は静かに聞いているが、時折「うん、すごいね」と相槌を打つだけだ。私は夫と目を合わせ、無言で笑い合った。

しかし、ある日、翔太の弾丸トークに変化が訪れた。彼が学校から帰ってきたとき、いつものように話を始めるかと思いきや、彼はしばらくの間、黙っていた。

「どうしたの、翔太?」と私は心配そうに尋ねた。

「うーん、今日ね、クラスの女の子が僕の話、うるさいって言ったんだ。だから、黙ってみようと思ったんだ」と翔太はしおらしく答えた。

その言葉を聞いたとき、私は少し胸が痛んだ。彼のエネルギッシュな話し方は、彼なりの世界の表現であり、創造力の一つの形だ。彼の話を「うるさい」と言われることで、彼の心が萎縮してしまうのではないかと心配になった。

「そうか…でもね、翔太。君の話が大好きだっていう人もたくさんいるんだよ。パパもママも、君の話を聞くのが楽しみなんだから」と私は優しく伝えた。

翔太はしばらく考えてから、ふっと笑顔を見せた。「うん、ありがとう、ママ。でも、ちょっとだけ静かにしてみるよ。どうなるか試してみたいんだ。」

それからの数日間、翔太の話す時間は少しだけ減った。しかし、彼の目の輝きは変わらなかった。彼は少しだけ「話すこと」について考える時間を持ち始めたようだ。それでも、時折、また弾丸トークが炸裂するときがある。

「ママ!やっぱり、僕、話すの好きだ!」と翔太はある日、にこやかに叫んだ。

「そうね、翔太。それでいいのよ。君の話はいつも楽しいから」と私は答えた。

そしてまた、息子の弾丸トークは再開した。彼の話はエネルギーに満ちていて、私たち家族をいつも明るくさせてくれる。もしかしたら、彼の話の中には、彼が見ている世界の一端が隠れているのかもしれない。彼の弾丸トークが、誰かの心に何かを残すとき、彼の冒険はまた新たな章を迎えるのだろう。









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