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力をください

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力をください

夜が更けるにつれ、瞼が重くなり、意識が朦朧としていく。私は机に向かい、パソコンの画面を見つめながら、どうにか眠気を追い払おうと必死だった。しかし、頭の中はぼんやりとしていて、文字が踊るように見える。こんな状態で、あと2000文字も書き上げるなんて無理だ――。

「力をください…」思わず口から漏れたその言葉は、誰に向けたものなのか、自分でもよくわからなかった。けれど、その瞬間、パソコンの画面が一瞬、暗転した。

「えっ?」

驚いて目をこすり、再び画面を見ると、そこには奇妙なメッセージが表示されていた。

「あなたが本当に力を必要としているのなら、その力を授けましょう。」

一瞬、夢でも見ているのかと思った。しかし、これは現実のようだ。私は半信半疑のまま、キーボードに手を置き、続けて尋ねた。

「どうやって?」

すると、画面には次のようなメッセージが表示された。

「この文章を書き終えたとき、あなたは力を得るでしょう。しかし、その力はあなたのものではありません。」

何か奇妙な感覚が私の背筋を駆け抜けた。まるで何か得体の知れないものが私を見つめているような感覚だ。しかし、眠気に勝てない私は、藁にもすがる思いで、その指示に従うことにした。

「どうすればいい?」私はキーボードを叩き、問いかけた。

「まず、心の中で何を一番強く願っているかを考えなさい。そして、その願いを叶えるために何を犠牲にできるかを決めなさい。」

私はしばらく考えた。眠りたい――それが今、一番強く願っていることだ。しかし、それだけではない。この原稿を仕上げるために必要な集中力、そして、再び創作意欲を取り戻すこと。それが、私の切実な願いだ。

「私はこの原稿を完成させたい。それを叶えるために、何を犠牲にすればいい?」そう書き込みながら、私は恐る恐る画面を見つめた。

すると、画面が再び暗転し、次のメッセージが浮かび上がった。

「あなたの願いを叶えるために、睡眠を犠牲にしなさい。力を与える代わりに、今夜の睡眠を全て捧げるのです。」

私はその提案に戸惑いを覚えた。眠れない夜を過ごすことは辛い。しかし、今、この瞬間に力が欲しいのも事実だった。

「わかった。私は今夜、睡眠を犠牲にする。」私はそう書き込んだ。

瞬間、画面が真っ白になり、強烈な光が溢れ出した。目を閉じてしまったが、次の瞬間、瞼の裏側で何かが動き始めた。深い眠りの中で見る夢のように、頭の中にイメージが次々と浮かんでくる。そして、それらのイメージは、急速に文章として組み立てられた。

不思議な感覚だった。自分の指が勝手に動き、文章を書き続けている。思考がクリアになり、言葉が次々と湧き出してくる。まるで、何か別の存在が私の中に入り込んでいるかのようだった。

時間が経つのも忘れ、私はひたすら文章を綴った。まるで何かに取り憑かれたかのように、ページが次々と埋まっていく。気がつけば、最初の2000文字を超えていた。

そして、最後の一文を書き終えた瞬間、ふっと意識が軽くなった。画面には、いつの間にか元の原稿が表示されている。

「これで終わり…」私は呟いた。確かに、私は力を得た。しかし、その代償として、眠りを失ったのだ。心の中で、何か大切なものが欠けてしまったような虚無感が広がった。

時計を見ると、すでに朝の光が差し込んでいた。夜を徹して書き続けたことに気づき、私は疲れ切った身体を椅子にもたれさせた。今すぐにでも眠りたいと思ったが、眠気は完全に消えてしまっていた。

「力をくれたんだね…」私は画面に向かって呟いた。けれど、その力は一時的なものであり、何か大切なものを代償にしたと気づいた時、深い後悔が胸に湧き上がってきた。

「やはり、眠りは必要だ…」私はそう思い、無理やり目を閉じた。しかし、眠りの神は私を許してはくれなかった。

それから数日、私は眠ることができなかった。どれだけ疲れていても、まったく眠気が訪れないのだ。あの夜の取引が、どれほど大きな代償を伴っていたのか、ようやく理解した。

やがて私は、もう一度あのメッセージが現れることを期待して、毎夜画面の前に座り続けた。しかし、二度とそのメッセージが表示されることはなかった。

眠れぬ夜を過ごしながら、私は自分の愚かさを嘆いた。力を得るために、大切なものを犠牲にしてしまったことを。力が欲しいと願ったその瞬間、私の中で何かが壊れてしまったのだ。

「力なんて、いらなかったのかもしれない…」私はそう呟きながら、再びキーボードに手を置いた。そして、何もない画面に向かって、ただひたすら書き続けた。

それは、私が取り戻すことのできなかった眠りへの、最後の祈りだった。








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