「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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識別力を働かせる瞬間

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「識別力を働かせる瞬間」

隆一は書斎で静かに本を手に取った。その日もまた、新しい本を読むべきかどうかの葛藤が彼の胸中に広がっていた。彼はこれまで読んできた数々の書物の中で、自分を大きく成長させたものもあれば、時間を浪費させたものもあったことをよく知っていた。

「何を読むべきか……」彼は呟いた。彼の目の前には、多くの本が整然と並べられていた。それらの一冊一冊が、彼に新たな知識や視点を提供してくれる可能性を秘めていたが、その中には彼の価値観や信念を揺るがすものもあるかもしれないという不安があった。

隆一は高校生の頃、ルネ・デカルトの言葉に深く感銘を受けた。「良書を読むことは、過去に生きていた教養ある人々と会話を交わすのに似ている」と。確かに、彼は書物を通じて偉大な思想家たちと心の対話を重ねてきた。しかし、時にはその「会話」が彼を混乱させ、何が正しいのかを見失いそうになったこともあった。

その時、彼の心に響いたのは、ソロモン王の忠告だった。「多くの書物を作ることには終わりがなく、それに余りに専念すると体が疲れる」という言葉は、読書の危険性を警告しているように感じられた。読書そのものが悪いわけではないが、その内容に注意を払うことが重要だと気づいたのだ。

彼は特に、自分の信念や価値観を揺るがすような本を読むときに注意深くなった。例えば、彼が以前手に取ったある哲学書は、彼の信仰に対して根本的な疑問を投げかけた。その本を読むことで、一時的に彼の信仰が揺らいだが、最終的にはそれを乗り越えることで、より強固な信念を持つことができた。しかし、それ以来、彼は自分が何を読むべきかを慎重に選ぶようになった。

その日も、彼は目の前の本をじっくりと見つめながら、読もうとしている内容が本当に価値のあるものであるかどうかを考えた。彼はイエスが言った「読者は識別力を働かせなさい」という言葉を思い出し、自分自身に問いかけた。「この本は本当に自分にとって有益だろうか? それとも、ただの時間の浪費なのか?」

彼は一度本を閉じ、窓の外に目をやった。窓の外には、穏やかな日差しが差し込んでいた。自然の美しさに心を落ち着かせながら、彼はゆっくりと深呼吸をした。そして、自分の内なる声に耳を傾けた。

「人間の伝統にしたがい……キリストにしたがわない哲学やむなしい欺きにより、あなた方をえじきとして連れ去る者がいるかもしれない」という聖書の警告が頭をよぎった。彼はその警告を重く受け止め、読書を通じて得る知識が、自分の信仰や人生観にどのような影響を与えるのかを慎重に考える必要があると悟った。

その結果、彼はその本を棚に戻し、別の本を手に取った。それは彼が信頼する著者が書いた、聖書に基づくアドバイスが載っている書物だった。彼はその本を開き、静かに読み始めた。読んでいるうちに、心が安らぎ、彼の中にある信仰がさらに深まっていくのを感じた。

彼は再び、読書が持つ力を実感した。それはただの知識の獲得ではなく、内面的な成長と自己探求の旅であり、選択の連続だった。そして、彼はこれからも慎重に選んだ本と共に、自分の信念を守りながら成長していく決意を新たにした。








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