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夏の終わり

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「夏の終わり」

あれは、8月の最後の夕暮れ時だった。日が沈むとともに、空は薄紫色に染まり、辺りには涼しい風が吹き抜けていた。町の外れにひっそりと佇む古い一軒家、その家が不気味な雰囲気を醸し出していると、誰もが口を揃えて言っていた。町の子供たちは決して近づかず、大人たちは無視するしかなかった。なぜなら、その家にはかつて忌まわしい噂がつきまとっていたからだ。

古い日記に残された記録によると、その家にはかつて、美しい娘が住んでいた。しかし、彼女は失踪し、その家の前で彼女の姿を見た者はいないという。彼女が消えた夜、家の周囲に不気味な音が響き渡り、村人たちはその音が彼女の叫び声であると信じていた。それ以来、その家は荒れ果て、時折、誰かが中で泣き叫ぶ声が聞こえるという噂が立った。

その日、大学生のユウタとリナは、好奇心からその家を訪れることに決めた。二人は夏休みの間にスリルを求めていたが、この家が引き起こす恐怖の本当の意味を理解することになるとは思っていなかった。

「見て、古びた門が閉まってる」とリナが言いながら、目の前に立ち尽くしていた。錆びた門は、まるで過去の時間がそのまま止まってしまったかのように見えた。ユウタは鍵がかかっていることを確認し、慎重に門を押し開けた。

二人は家の中に足を踏み入れた。薄暗い廊下を歩くにつれて、湿気と腐敗の匂いが漂ってきた。古びた家具や壊れた窓、すべてが長い間放置されていたことを物語っていた。ユウタは持参した懐中電灯で部屋を照らしながら、リナと共に探索を始めた。

「ここに住んでいた人がいなくなってから、どれくらい経つんだろう?」リナが疑問に思いながら言った。

「記録によると、30年以上前だよ。だから、ここには何も残っていないかもしれないね」とユウタが答えた。

二人は家の奥にある地下室へ向かうことに決めた。地下室はかつて家族のために使われていた場所で、古いトランクや棚が無造作に置かれていた。ユウタがトランクを開けると、中には埃まみれの古い衣服と、昔の家族写真が入っていた。それらを手に取ると、突然、地下室全体が寒くなり、電灯が瞬きを始めた。

「おい、これどうなってるんだ?」ユウタが不安そうに言った。

その瞬間、どこからともなく女性のすすり泣きが聞こえてきた。リナの顔が青ざめ、ユウタもその声に耳を澄ました。泣き声は地下室の奥から響いているようだった。

「行こう、ここから出よう」とリナが言ったが、ユウタはその声に引き寄せられるように歩き続けた。彼らの懐中電灯が照らし出す先には、古い木の扉があった。その扉の前に立つと、泣き声がより一層強くなった。

「この扉の向こうに何かがある」とユウタは呟き、扉を押し開けた。中には、古い鏡が立てかけられている部屋が広がっていた。鏡の中には、誰もいないはずの空間が映し出されていた。

突然、鏡の中に女性の顔が現れた。彼女の目は空虚で、悲しみに満ちた表情をしていた。リナは恐怖に駆られ、後ろに下がろうとしたが、足がすくんで動けなかった。

「あなたたちはここに来てはいけなかった」と、鏡の中の女性の声が響いた。声は冷たく、空気を震わせた。ユウタとリナは恐怖に包まれながら、どうすることもできずにその場に立ち尽くしていた。

「この家は私たちを囚えている」と女性の声が再び響いた。「あなたたちも、私と同じ運命を辿ることになるだろう」

鏡の中の女性は徐々に消え、鏡の表面は元の静かな姿に戻ったが、二人の心には恐怖が深く刻まれていた。地下室を急いで後にし、家の外に出ると、夜の闇が彼らを包み込んだ。

外の空気は冷たく、涼しい風が吹き抜けていたが、二人はその冷たさを感じる余裕もなく、ただただ家を背にして走り続けた。後ろを振り返ることなく、二人はその家から遠く離れた。

町に戻った二人は、その家に関する話を口にすることはなかった。しかし、彼らの心には、夏の終わりに感じたあの恐怖が永遠に残っていた。誰もが恐れるその家の秘密が明かされることはなく、町の人々はまた別の噂を耳にするだけだった。

夏の終わりの薄暮の中で、あの古い家はまた静かに、ひっそりと闇に包まれていた。








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