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9000円の重み

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9000円の重み

「ただの冗談だったんだよ。」

ヤスオはスマホの画面を見つめながら、友人たちにそう言った。彼らは一緒に笑い、軽く同意した。「だよな、みんなやってるし」と。

ヤスオがその「冗談」をネットに投稿したのは、ほんの数日前のことだった。彼は、近所で有名だった女性、ミサキのある写真を見つけ、それに「まるで売女みたいだ」という言葉を添えて投稿した。彼女の服装やメイクが派手だったことが、ヤスオにとっては格好の「ネタ」だったのだ。

最初は誰も気に留めなかった。しかし、ある大手のインフルエンサーがその投稿をリツイートし、瞬く間に拡散された。数千、数万のコメントが押し寄せ、ミサキのアカウントには誹謗中傷が次々と書き込まれた。彼女の顔写真が加工され、あざ笑う画像や動画がネット中に広がった。

ヤスオは最初、興奮していた。自分の投稿がこれほど話題になるとは思わなかったからだ。友人たちと一緒にその炎上を楽しみ、笑い合っていた。しかし、ミサキが自殺したというニュースが流れた瞬間、彼の心は凍りついた。

「まさか、俺のせいで…」

罪の意識がヤスオを襲ったが、それを認めることはできなかった。彼はすぐに自分を正当化した。「俺だけじゃない。みんなもやってた。どうして俺だけが責められるんだ?」と。

警察は事件を調査し、ミサキに対する中傷や侮辱がどこから始まったのかを特定した。ヤスオの投稿が発端であり、彼が責任を取ることになるのは避けられなかった。やがて、侮辱罪で起訴されることとなった。

裁判の日が来た。法廷で、ヤスオは自分がどれほど軽率だったかを悟った。ミサキの両親が証言台に立ち、涙ながらに娘の無念を語った。彼女がどれほど苦しみ、最後には逃げ場を失ってしまったか、その言葉はヤスオの心に突き刺さった。

判決が下された。ヤスオには9000円の罰金が課せられた。侮辱罪としては妥当な金額だと裁判官は言った。しかし、その言葉がヤスオの耳には遠く響いた。

「9000円…それだけで済むのか…」

彼は自分の犯した罪が、この小さな金額で清算されるとは到底思えなかった。彼が引き起こした炎上が、一人の命を奪い、その家族の心を打ち砕いたのだ。そんな行為に対する代償が、たったの9000円だなんて。

裁判が終わり、ヤスオは法廷を後にした。外は晴れていたが、彼の心は暗雲に包まれていた。彼はもう友人たちと笑い合うこともできず、以前のように何気なく投稿をすることもなくなった。彼は社会から孤立し、ネット上でも現実でも、自分の居場所を失っていった。

9000円の罰金は支払った。しかし、それで罪の意識が消えることはなかった。ヤスオは毎晩、ミサキの顔が頭に浮かび、彼女の苦しみが自分のせいであったことを忘れることができなかった。

時が経ち、ヤスオはふと立ち寄った小さな寺で手を合わせた。そのとき、心の中で小さな声が囁いた。「たった9000円で、彼女の命を償えるわけがない。だが、それ以上に何ができる?」

ヤスオはその問いに答えを見つけることができなかった。ただ、ひたすら祈り続けた。その行為が彼にとってどれほどの意味を持つのか、彼自身にもわからなかったが、少なくともそれが唯一、自分にできることだと信じた。

そして、彼は決して忘れなかった。彼が奪った命、その重さを。そして、たった9000円で清算されたその行為が、彼の人生をも蝕んでいったことを。

この物語は、ネット上での無責任な行為がどのように現実の人々を傷つけ、その結果がどれほどの重みを持つかを描いています。9000円という罰金が、決してその行為の代償にはならないというメッセージを込めています。
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