「俺は小説家になる」と申しております

さもしい心の戦場

「さもしい心の戦場」

明子は、日々アルファポリスに小説を投稿していた。彼女はそのサイトでのランキングやポイントシステムに夢中になり、インセンティブがかかる24時間ポイント戦に参加するのが日常になっていた。初めの頃は、書くことの楽しさと読者からのフィードバックが嬉しくて、毎日が充実していた。しかし、次第に彼女の心は変わり始めた。

ある日、明子は自分が気に入ってお気に入り登録をした作品が、自分の小説よりも上位に上がっていくのを目にした。心の奥で感じたのは、喜びではなく、嫉妬と焦燥感だった。「どうして、あの作品がこんなにも支持されているんだろう？」自分の中で渦巻く負の感情に、明子は戸惑った。

「私はあの作品を応援していたはずなのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう？」明子は自分を責めた。しかし、ランキングが更新されるたびに彼女の心はますますさもしくなっていく。「自分の方が努力しているのに、どうして評価されないの？」そんな気持ちが彼女の中で膨らんでいった。

毎晩、明子は自分の作品の評価やコメントを確認し、ライバル作品の動向を追いかけるようになった。彼女の生活は、まるで戦場にいるかのように、他人との比較と勝ち負けに支配されるようになっていった。

そして、ついに彼女の心は限界を迎えた。ある夜、明子は自分の作品が急激にポイントを失い、ランキングが下がるのを見てしまった。「どうしてこんなことに…」彼女は画面の前で涙を流し、深い虚無感に襲われた。何度も何度もランキングを確認しては落ち込む。彼女の心は、すっかり疲れ果てていた。

「こんな風に人と競い合うために、私は書いているんじゃない…」ふと、明子はかつての自分を思い出した。初めて小説を書いたときの喜び、読者からの応援メッセージに胸を弾ませた瞬間。あの頃の純粋な気持ちは、今の自分にはもうないのかもしれない。

そんな中、彼女はふと、昔の友人からのメッセージを思い出した。その友人も同じように小説を書いていたが、アルファポリスのランキングやポイントには興味を示さなかった。「私は、自分の書きたいものを書く。それが誰かに届けば、それでいいと思ってる」と言っていた言葉が、明子の心に刺さった。

明子は、友人に連絡を取ってみることにした。久しぶりに話す友人は、変わらず穏やかで、書くことを楽しんでいた。彼女の声を聞いているうちに、明子は少しずつ自分の心が解き放たれていくのを感じた。

「ランキングやポイントも大切かもしれないけど、それに囚われすぎてしまうと、本当に大切なものを見失ってしまうんじゃないかな」と友人は優しく言った。その言葉に、明子はハッとさせられた。

「本当に大切なもの…」明子は自分に問いかけた。自分が何のために書いていたのか、もう一度思い出そうとした。そして、ふと気づいたのだ。自分が書き始めた頃の喜びや、読者との繋がりを感じた瞬間、それこそが本当に大切なものだったのだと。

明子は、その日からランキングやポイントに囚われることをやめ、自分の作品を書くことに集中するようになった。他人の作品が上位に来ても、もう焦ることはなくなった。それどころか、心から応援する気持ちを取り戻した。

そして、自分の作品を楽しんでくれる読者との交流を大切にし、再び書くことの喜びを取り戻したのだ。明子の作品はランキング上位に上がることはなくても、彼女は満足していた。彼女にとって、本当に大切なものを見つけたのだから。

その後、友人との交流も続き、お互いに作品を見せ合いながら成長していった。明子はようやく、自分の心が落ち着きを取り戻し、再び筆を取ることができた。

ランキングやポイントがすべてではない。大切なのは、自分が心から楽しみ、誰かに届けたいと思う気持ち。明子は、これからも自分のペースで、書き続けていくことを決意したのだった。