「俺は小説家になる」と申しております

なんでなんだよー

なんでなんだよー

「なんでなんだよー！」

佐藤直樹は思わず声をあげ、パソコンの前で拳を握りしめた。ここ数週間、彼は必死に毎日小説を更新していた。少しでも読者に喜んでもらいたい、その一心で、仕事から帰ってきては眠る間も惜しんで書き続けていたのだ。

直樹の書いている小説は、ファンタジー世界を舞台にした冒険物語だった。自分が思い描く世界を形にし、登場人物たちが生き生きと動き回る様子に心を躍らせていた。しかし、その楽しさはやがて次第に不安と焦りに変わっていった。

「点数がまた下がってる…。」

直樹はため息をつきながら、画面に表示された評価を見つめた。昨日までついていた星が、今日になってさらに一つ減っている。それどころか、読者からのコメントも減り、まるで誰も自分の作品に興味を持たなくなったように感じた。

「どうしてだよ…。頑張ってるのに、なんで評価が下がるんだ？」

彼は頭を抱え、深いため息をついた。以前は、更新するたびに少しずつ評価が上がっていくのが嬉しくて、やる気も満ちていた。しかし、最近は逆に評価が下がるばかりで、そのたびに心が重くなっていった。

「こんなの、もうやめてしまいたい…。全ての小説を消して、何もなかったことにしたい。」

直樹はその衝動を抑えきれず、手が震えた。自分の努力が否定されるような気がして、たまらなく辛かった。今まで書き上げた何万文字もの文章が、まるで無意味に思えてくる。消してしまえば、この苦しさからも解放されるのではないか、そんな考えが頭をよぎる。

だが、ふとその手が止まった。

「…でも、本当にそれでいいのか？」

直樹は自問自答した。確かに今は苦しい。しかし、小説を書き始めた当初の気持ちを思い出した。あの時、彼は何もかもが楽しかった。物語を創造し、自分の世界を作り上げる喜びがそこにあった。それは他の何にも代えがたい充実感だった。

「評価が下がっているからって、全てを投げ出してしまうのは違うんじゃないか？」

彼は自分に言い聞かせるように、画面を見つめた。評価が全てではない。それよりも、自分がこの物語をどうしたいのか、どんな結末を迎えさせたいのか、それが大切なはずだ。評価や点数に振り回されて、何のために書いているのかを見失ってはならない。

直樹は深呼吸をして、少し落ち着きを取り戻した。そして、再びキーボードに手をかけた。彼は、評価を気にするあまり、本当に書きたいことを忘れていたのではないかと思った。自分自身が楽しみ、納得できる作品を作ることが、一番大切なことだと感じ始めたのだ。

「まずは、自分が納得する形で物語を進めよう。」

そう決意すると、直樹は再び物語の世界に没頭し始めた。彼の中で燻っていた不安や焦りが少しずつ薄れていくのを感じた。評価がどうであれ、この物語を完結させることが自分にとっての最大の挑戦であり、達成感に繋がるのだ。

次第に、直樹の指はリズミカルにキーボードを叩き始めた。物語の登場人物たちは再び活き活きと動き出し、彼の中で物語が再構築されていく。彼はその世界に没入し、やがて時間を忘れて書き続けた。

「よし、これでいいんだ。」

書き終わった後、直樹は画面を見つめて静かに呟いた。評価や点数はもう気にしない。自分が本当に書きたかった物語を形にできたことが、何よりの満足感だった。

その夜、直樹は久しぶりにぐっすりと眠りについた。夢の中で、彼は再び自分の作り上げた世界を旅していた。登場人物たちが笑顔で彼を迎え、彼はその中で心からの安らぎを感じていた。

そして、目覚めた朝、直樹はふとパソコンを開いた。新しいコメントが一つだけついていた。

「この物語、すごく心に響きました。続きが楽しみです。」

その一言で、直樹の心は再び暖かくなった。自分の書いた物語が、誰かの心に届いたのだ。そのことが、何よりの喜びだった。

「なんでなんだよー！」と叫んだあの夜はもう過去のものとなった。直樹はこれからも、自分が本当に書きたい物語を追い求めていくことを決意した。評価はどうであれ、自分の作品に誇りを持ち続けることが、彼にとって一番大切なことだった。

この物語では、小説を書くことに情熱を注ぎながらも、評価に振り回されてしまう主人公が、自分の創作の本質に立ち返る過程を描いています。評価や点数に左右されることなく、自分が本当に書きたい物語を追求することの大切さがテーマとなっています。