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春秋花壇

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じっとりと汗のにじんだTシャツ

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「じっとりと汗のにじんだTシャツ」

じっとりと汗のにじんだTシャツは接近命令が出されたストーカーみたいにまとわりつく。蒸し暑い夏の午後、玲奈は駅のホームで電車を待ちながら、不快感に眉をひそめた。汗で貼り付くTシャツを引っ張って空気を入れようとしたが、あまり効果はなかった。

「もう、なんでこんな日に限ってエアコンが壊れるのよ」

玲奈は小さくつぶやきながら、電車が来るのを待っていた。今日は特別な日だった。大学時代の友人たちと再会する約束をしていたのだ。卒業以来、忙しさにかまけてなかなか会う機会がなかったが、ついに全員の予定が合い、久しぶりの再会が実現することになった。

電車がホームに滑り込む音が聞こえ、玲奈は急いで乗り込んだ。車内もまた蒸し暑く、冷房の効きが悪い。玲奈は窓際の席に座り、外の景色を眺めながら友人たちとの再会を思い描いた。

「みんな、元気かな…」

玲奈はそう考えながら、大学時代の思い出に浸った。楽しい日々、苦しい時期、共に過ごした仲間たち。それぞれがどのような道を歩んできたのか、話を聞くのが楽しみだった。

駅に到着し、玲奈は人混みをかき分けて改札を抜けた。約束のカフェは駅から少し歩いた場所にあり、玲奈は汗を拭いながら急いだ。カフェに着くと、すでに友人たちが集まっており、懐かしい顔ぶれが笑顔で迎えてくれた。

「玲奈、久しぶり!元気だった?」

「みんなも変わらないね!」

再会の喜びに包まれながら、玲奈は席に着いた。話題は自然と近況報告へと移り、それぞれがどのような人生を歩んできたかが語られた。玲奈は、自分の生活の中で感じていた悩みや不安を共有し、友人たちからの励ましの言葉に心が温まるのを感じた。

「そういえば、玲奈、あの時のこと覚えてる?」

友人の一人がふと思い出したように話し始めた。それは、大学時代に一緒に旅行に行った時のエピソードだった。楽しかった思い出が次々と語られ、笑いが絶えない。

「懐かしいね。あの頃は本当に自由で、何もかもが楽しかった」

玲奈は微笑みながらそう答えた。しかし、その笑顔の裏には、現在の自分に対する不安や迷いが隠されていた。

カフェでの楽しいひとときが終わり、玲奈は友人たちと別れを惜しみながら帰路についた。夜の風が少し涼しくなり、少しだけ汗ばむTシャツも乾いてきた。駅に向かう途中、玲奈はふと立ち寄った公園のベンチに腰を下ろした。夏の夜空を見上げると、星がちらちらと輝いていた。

「これでいいのかな…」

玲奈は自問自答した。友人たちと過ごした時間は楽しかったが、帰り道に感じたのは、一抹の孤独感だった。皆がそれぞれの道を歩んでいる中で、自分は本当にやりたいことを見つけられているのか、疑問に思ったのだ。

その時、玲奈のスマートフォンが振動した。画面には、友人の一人からのメッセージが表示されていた。

「玲奈、今日はありがとう。また近いうちに集まろうね。それから、元気出してね。玲奈はいつも頑張ってるから、きっと大丈夫だよ。」

玲奈はそのメッセージを読んで、少しだけ涙が浮かんだ。友人たちの優しさが心にしみわたった。

「そうだ、私は一人じゃない」

玲奈はそう思い直し、立ち上がった。じっとりと汗のにじんだTシャツも、今では少し心地よく感じられた。彼女は自分の歩むべき道を探しながら、また一歩前に進むことを決意した。

夜風が玲奈の髪を揺らし、遠くからは夏の終わりを告げる虫の声が聞こえてきた。玲奈はその音に耳を傾けながら、前を見据えて歩き出した。夏の忘れ物である汗にまみれたTシャツも、今では新たな一歩を踏み出すためのエネルギーに変わっていた。

玲奈の心には、友人たちとの絆と共に、新たな希望が芽生えていた。夏の終わりと共に訪れた変化の兆しが、彼女の未来を照らしてくれることを信じて。








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