「俺は小説家になる」と申しております

「君の小説は心が動かない」と、読者に言われた

「君の小説は心が動かない」と、読者に言われた

小説家を目指していた僕、隆（たかし）は、ある日、読者からの手紙を受け取った。「君の小説は心が動かない」と書かれていた。その一文に胸を打たれ、僕はしばらく手紙を握りしめたまま、椅子に座り込んだ。

創作の世界に足を踏み入れて以来、僕は一心不乱に物語を紡いできた。テーマを決め、プロットを練り、キャラクターを描き込む作業は楽しかった。完成した作品を投稿し、少しずつ評価を受けるようになったが、どこか心に引っかかるものがあった。僕の作品が本当に読者の心に響いているのかどうか、自信が持てなかったのだ。

手紙の送り主は、感想を淡々と述べていた。物語の展開は面白かったが、登場人物の感情が薄っぺらく感じられるとのことだった。その指摘に僕は愕然とした。僕の小説は心が動かない。つまり、読者に感動を与えることができていないのだ。

その夜、僕は自分の部屋で過去の作品を読み返してみた。確かに、ストーリーの展開や設定には自信があったが、キャラクターの感情表現は浅かった。読者が登場人物に共感できないのも無理はない。

次の日、僕は外に出て、街を歩いた。人々の顔、表情、仕草に目を向けることにした。公園では子供たちが笑顔で遊び、カフェでは若いカップルが楽しそうに話し合っていた。そうした一瞬一瞬の感情の表現が、僕の小説には欠けていたのかもしれないと気付いた。

それから数週間、僕は毎日街に出て人々を観察した。喜び、悲しみ、怒り、驚き、さまざまな感情が交錯する瞬間をメモに書き留めた。そして、その感情を自分の作品に取り入れることを決意した。

新しい小説を書き始めるとき、僕はこれまで以上にキャラクターの内面に焦点を当てた。彼らの過去、夢、恐怖、喜び、そうしたものを丁寧に描くことを心掛けた。物語の中で彼らが成長し、変化し、時には苦悩しながらも前に進む姿を描くことができた。

新作を完成させたとき、僕は自信を持ってそれを投稿した。数日後、再び読者からの手紙が届いた。「今回の作品は素晴らしかった。登場人物に感情移入でき、心が動かされた」と書かれていた。僕はその手紙を読み、涙がこぼれた。

「君の小説は心が動かない」という言葉は、僕にとって大きな転機となった。その言葉がなければ、僕は感情表現の重要性に気付くことはなかっただろう。そして、読者の心に響く作品を生み出すためには、キャラクターの感情を深く掘り下げることが不可欠だと理解した。

今、僕は再び執筆活動に励んでいる。読者の心を動かすために、キャラクター一人一人の感情に寄り添い、彼らの物語を丁寧に描くことを心掛けている。読者からの手紙は、僕の机の引き出しに大切にしまわれている。それは、僕が作家として成長するための原動力となった言葉だからだ。

「君の小説は心が動かない」という言葉は、僕にとっての教訓となり、これからも忘れないだろう。その言葉を胸に、僕はこれからも読者の心に響く物語を紡ぎ続ける決意を新たにした。