「俺は小説家になる」と申しております

山滴る(やましたたる)

夏には山へ行こう 山こそわが家
青い鳥が鳴き暁 知らすよ
お花畑には野ばらが咲いてる
胸の思い歌えばこだまが こたえる
朗らな山こそあこがれのわが家

小川のせせらぎ
かっこうの鳴き声
白百合の群生
風はそよぎ
稲の青海原がなびく
枇杷やプラムがたわわに実り
蛙の歌が聞こえてくる
山々は滴るような緑に包まれ
ああ　懐かしのわが家

山滴る（やましたたる）

夏の訪れと共に、山々は新緑に包まれる。標高の高い頂にある小さな村、清風村（せいふうむら）では、古くから「山滴る」と呼ばれる景色が愛されてきた。山の斜面に広がる緑が、まるで水滴が滴るかのように見えるのだ。

村に住む青年、翔太（しょうた）は、山での散策が大好きだった。特に夏の日差しを浴びながら、木々が茂る斜面を歩くのが日課だった。ある日、翔太は山深くで出会った少女、彩音（あやね）という名の美しい女性に惹かれる。

彩音は山の豊かな自然と共に暮らし、その美しさを讃える詩を書くことが趣味だった。彼女の詩には、山が滴るような緑の光景が生き生きと描かれていた。翔太は彼女の詩に触れるたびに、自然との共鳴を感じていた。

二人は共に山を歩き、季節ごとに変わる自然の美しさを共有しながら、心を通わせていった。翔太は彩音との時間が、自分の心の中に新しい景色を生み出していることに気付く。彼女の詩の言葉が、山の緑が滴るような生命の息吹を彼の心に宿らせたのだ。

しかし、ある日、彩音は突然村を離れることを決意する。彼女は新たなる旅路を歩むために、清風村を後にすることになった。翔太は彼女の決断を受け入れるが、彼女の美しい詩と山の自然が彼の心に永遠に残ることを心に決める。

翔太は彩音の去った後も、夏の山での散策を続けた。彼は彼女の詩が描くように、山が滴るような緑の光景を見つける度に、彩音の存在を感じていた。そして、その美しい光景が、彼の心に静かな喜びと平穏をもたらすのであった。

清風村の人々は、彩音の詩と翔太の語りによって、山が滴る美しい夏の光景を共有し、その景色が生み出す感動と共に、日々の生活を営んでいった。

翔太は彩音の去った後も、清風村の山々での日常を大切にしていた。彼は夏の訪れと共に、彩音が詠った詩の言葉を胸に、山での散策を続けていた。夏の午後、風がそよぐ中、翔太は山道を歩みながら、彩音の優しい笑顔を思い出した。

「山滴る」という言葉が彼の心に響く度に、彼は彩音が山の中に残した足跡を感じる。彼女の詩に描かれた白百合の群生や、草木の葉が風に揺れる音が、まるで彼女がそこにいるかのように感じられた。

ある日、翔太は山深くの小川で、再び彩音との出会いを思い出す。小川のせせらぎが彼を包み込み、かっこうの鳴き声が遠くで響いていた。彩音との時間が彼に与えた平穏と、山の自然が彼に与える安らぎが一体となり、翔太の心は新たなる成長を遂げていた。

夏が過ぎ、秋が訪れる頃、清風村では収穫の季節がやってきた。翔太は村人たちと共に黄金色の稲穂の海原を見つめ、彼らの歓声が山々に響く中で、彼は自分自身の一部として山に溶け込んでいることを感じた。

「実るほど首を垂れる稲穂かな」

風が立つ。
キラキラと光る金色の波は豊饒の海のようであった。
おはやしが聞こえる。
山滴る緑は色を頬を染めて色づいていく。
さぁ、木の葉たちの恋の始まり。
アントシアニン、クロロフィル、カロテノイド。
赤や黄色に燃え上がれ。

彩音の詩が教えてくれたように、山は滴るような緑に包まれた美しい家だった。そして、翔太は彼女の去った後も、その美しい光景を胸に刻み続けることを決めたのであった。