「俺は小説家になる」と申しております

時間の引き出し

時間の引き出し

宮崎りえは、40代を迎えたばかりの舞台女優だった。彼女は、仕事に打ち込む一方で、年齢を重ねることへの不安を抱えていた。そんなある日、彼女は尊敬する女優、斉藤しのぶの舞台を観に行った。

しのぶは50代後半にもかかわらず、その舞台上での存在感と自由さに圧倒されるほどだった。彼女の動きや言葉には年齢を感じさせないしなやかさがあり、りえはその魅力に引き込まれた。

舞台が終わった後、りえは楽屋を訪れ、しのぶに挨拶をすることにした。楽屋の扉をノックすると、しのぶが笑顔で迎え入れてくれた。

「宮崎さん、来てくれてありがとう。どうだったかしら？」と、しのぶは優しく問いかけた。

「とても感動しました。しのぶさんの舞台は、いつも私に新しい発見をもたらしてくれます」と、りえは心からの感謝を伝えた。

「それは嬉しいわ。あなたも素晴らしい女優ね。いつも自分の限界を超えようとしているのが伝わってくる」と、しのぶは温かい目でりえを見つめた。

その夜、りえは帰宅してからも、しのぶの舞台のことを考えていた。どうすればあのように自由に、そして自信を持って舞台に立ち続けることができるのだろう。彼女の頭には、しのぶが操る「時間」と「身体」という言葉が浮かんでいた。

翌日、りえはカフェでノートを開き、自分の思考を整理することにした。彼女はしのぶの言葉を思い出しながら、自分自身のこれからの10年間をどう過ごすべきかを考えた。

「しのぶさんは50代後半の年齢でいらして、時間とか身体を自由に操っている。あの自由を手に入れるには、きっとたくさんの引き出しを持っていないといけない。そのためには、私も50代へ向かう40代からの10年間では楽をせず、もがいて、たくさんの引き出しを見つけていかなければ……」

そう思いながら、りえはノートに「引き出しリスト」と題したページを作った。そこには、彼女がこれから学びたいことや挑戦したいことが書き込まれていった。

「ダンスのスキルを磨く」「新しい演技法を学ぶ」「異なるジャンルの作品に挑戦する」――彼女のリストは次々と埋まっていった。

数ヶ月後、りえはそのリストに従い、新しい挑戦を始めた。ダンススクールに通い、バレエやコンテンポラリーダンスを学び始めた。演技のワークショップにも積極的に参加し、異なる演技法を吸収していった。彼女は休む間もなく、全力で自分を磨き続けた。

そんなある日、りえはまたしのぶと会う機会を得た。しのぶが出演する舞台の後、二人はカフェでゆっくりと話すことにした。

「宮崎さん、最近のあなたの活動を聞いてるわ。とても積極的に色々なことに挑戦しているんですってね」と、しのぶは微笑んだ。

「はい。しのぶさんの舞台を観て、自分ももっと自由になりたいと思ったんです。たくさんの引き出しを見つけるために、色々なことに挑戦しています」と、りえは答えた。

「それは素晴らしいことね。私も同じようにして、今の自分を築いてきたわ。大事なのは、挑戦を恐れないこと。そして、自分を信じること」と、しのぶは優しくアドバイスをくれた。

りえはその言葉に勇気をもらい、さらに頑張る決意を固めた。彼女はこれからも引き出しを増やし続け、しのぶのように自由でしなやかな舞台女優を目指すことを誓った。

それから数年が経ち、りえは多くの新しいスキルを身につけ、自分の引き出しを豊かにしていった。舞台上での彼女は以前にも増して自由で、観客を魅了する存在となった。

ある日、りえは大きな舞台で主演を務めることになった。その公演が終わった後、楽屋を訪れると、そこにはかつての自分のように舞台に憧れる若い女優が立っていた。

「宮崎さん、あなたの演技に感動しました。どうすれば、そんなに自由に舞台で輝けるのですか？」と、その若い女優は問いかけた。

りえは微笑みながら答えた。「たくさんの引き出しを持つこと。そして、その引き出しを開けるために、挑戦を恐れず、常に自分を磨き続けること。それが私の答えです」

若い女優はその言葉に感動し、りえのように努力することを誓った。

りえはその姿を見て、自分が歩んできた道のりを振り返りながら、これからも引き出しを増やし続け、さらなる自由を手に入れることを決意した。彼女の人生は、挑戦と成長の連続であり、それが彼女の輝きを増し続ける原動力となっていた。