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空に舞う鳶

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空に舞う鳶

吉村は、駅のプラットフォームでぼんやりと空を見上げていた。朝の清冽な空気が肌を心地よく刺激し、少し眠たい目をこすりながら、彼は今日も新たな一日の始まりを感じていた。

「もしかして、僕は小説家のばかな癖を持っているのかな」と、吉村は自嘲気味に思いを巡らせる。彼は最近、執筆に没頭しすぎて、現実世界と小説の世界が重なってしまうことがある。特に感情の起伏が激しい時には、小説の登場人物が現れたり、自分の心情が小説の中で反映されたりすることがあるのだ。

今朝も、そのような感覚に襲われた。駅のホームでふと空を見上げたとき、彼はふとした瞬間に涙を浮かべている自分自身を見つけた。それは些細なことで、何か特別なことがあったわけではない。しかし、その瞬間に感じた感情はとてもリアルで、まるで彼の心が別の場所に飛んでいったかのようだった。

「もう、小説家の癖だな」と、吉村は自分自身を戒めるようにつぶやいた。彼はこの数年間、小説家としてのキャリアを築いてきた。いくつかの短編小説が雑誌に掲載され、評価も順調に上昇している。しかし、それと同時に、彼の日常生活も少しずつ小説の世界に染まりつつあるように感じられることがある。

吉村は空を見上げた。青空が広がっていて、朝日が眩しく輝いている。そして、高く、自由に鳶が一羽舞っていた。その姿が彼の目に留まり、何かを思わせる。

「鳶か……」吉村はふと思い出した。ある小説の中で、主人公が鳶を見ながら自分の心情を整理していた場面があった。主人公は孤独を感じながらも、鳶の自由さに憧れ、それを自分の内面と重ね合わせるのだった。

「やっぱり、小説は現実と違う世界なんだろうな」と、吉村はふと感じた。小説の中では、何でも起こり得る。感情の動きも、現実世界よりもはるかに複雑で、深い。だからこそ、彼は小説を書き続けるのだ。自分の心の奥深くにある感情を掘り起こし、言葉に変えて表現する喜びを味わうために。

プラットフォームには他の人々も溢れている。早朝の通勤客や、スーツを着たビジネスマンたちが、それぞれの目的地に向かっている。しかし、吉村は今、この瞬間を大切に感じていた。彼の中で小説が動き始め、次のストーリーのヒントが浮かんでくるのを待っているかのようだった。

鳶が再び高く舞い、青空が彼を包む。吉村は深呼吸をし、そして駅の方向に向かって歩き出した。今日も新しい一日が始まる。そして、きっと新しい物語も始まるのだろう。

彼は小説家の癖を咎めつつも、その魔法に心を奪われながら、歩みを進めていった。
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