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「45年も帰っていない実家に行ってみよう。」

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「45年も帰っていない実家に行ってみよう。」

突然思い立った私は、まるで昔に戻るかのような気持ちで電車に乗り込んだ。父が亡くなり、母も病に倒れたあの夏の日以来、一度も帰らなかった故郷。誰も住んでいない家はどうなっているのだろう。気がかりではあったが、行動に移す勇気が出なかったのだ。

電車を降りて、さらにバスに乗り換えると、記憶の中の風景が次々と現れた。細い道を抜け、懐かしい駅前通りを歩き、やがて見えてきたのは、かつての我が家があった場所だった。庭の木々は伸び放題で、塀は苔むし、門扉は錆びついている。あの頃の賑わいはまるで幻のようだ。

「鍵は…まだあるだろうか?」

手を伸ばしてみると、郵便受けの裏に隠してあった合鍵がそのまま残っていた。45年の歳月を経て、驚くほど無事だった鍵を手に取り、錆びついた鍵穴に差し込んだ。少し力を入れて回すと、重い音とともに扉が開いた。

家の中は暗く、静かだった。薄暗い光が差し込む中、埃っぽい空気が漂っていた。母が生けたままの花瓶、父が置きっぱなしにした新聞、そして私が遊び散らかしたおもちゃの数々がそのままの姿でそこにあった。

「こんなに長い間、誰もいなかったのに…」

足元の床はきしみ、壁にはひびが入っているが、それでも家の形はしっかりと保たれていた。リビングルームに足を踏み入れると、あの頃のままの家具や写真が目に飛び込んできた。父の書斎にはまだ本が並び、母の手作りのカーテンも色褪せたまま掛かっていた。

「懐かしいなあ…」

ふと、家の奥から風が吹き抜けたような音がした。何かが動いたのだろうか。心臓が早鐘を打つ。慎重に進んでいくと、階段の途中で足を止めた。上の階から微かに誰かの声が聞こえる気がしたのだ。

「誰かいるのか?」

心の中で問いかけながら、階段を一歩ずつ登っていく。音のする方に向かって足を進めると、古びたドアが目に入った。ノブに手を掛け、そっと開けると、そこには母の寝室が広がっていた。ベッドの上には、母の形見のセーターが無造作に置かれている。いつの間にか涙が頬を伝った。

「母さん、帰ってきたよ…」

部屋を見回していると、一枚の古びた写真が目に入った。そこには幼い頃の私と両親が笑顔で写っている。写真を手に取り、じっと見つめると、心の中で忘れかけていた思い出が一気によみがえった。

その時、不意に電話が鳴った。古びた黒電話が机の上で震えている。誰からだろう?45年間、誰も住んでいないはずの家に電話がかかってくるなんて。

恐る恐る受話器を取ると、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。

「おかえり、息子よ。」

その声は、亡き父のものだった。愕然とし、言葉を失った私は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。父の声が続けた。

「この家を守ってくれてありがとう。君が帰ってくるのを待っていたんだ。」

涙が止まらなくなった。私は受話器を握りしめ、ただ泣くしかできなかった。

父の声は静かに消え、家の中は再び静寂に包まれた。しかし、心の中には温かい何かが広がっていた。45年間のブランクを埋めるように、家は私を受け入れてくれたのだ。

その日以来、私は何度も実家を訪れ、少しずつ修繕を始めた。父と母の思い出が詰まったこの家を、もう一度家族の温もりで満たすために。







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