「俺は小説家になる」と申しております

送り火

送り火

京都の夏の夜空を彩る五山の送り火。今年も、大文字、松ノ木、妙法、鳥居、船鉾の火文字が、幽霊たちの魂をあの世へと送るために燃え上がる。

嵐山の麓にある小さな村に住む少年、健太は、毎年、祖父と一緒に送り火を見上げていた。健太にとって、送り火は夏の風物詩であり、同時に、亡き祖母を思い出す大切な時間でもあった。

今年の夏も、健太は祖父と送り火を見上げていた。しかし、今年はいつもと違う。祖父の顔に、どこか影が見えたのだ。

「じいちゃん、どうしたの？」

健太は心配そうに尋ねた。

「ああ、今日はちょっと特別な日なんだ。」

祖父はゆっくりと語り始めた。

「実は、じいちゃんも、あの火の一つになるんだ。」

健太は驚いた。

「えっ、どういうこと？」

「じいちゃんはもう歳だからね。そろそろ、あの世へ旅立つ時が来たんだ。」

健太は涙を流しそうになった。

「じいちゃんがいないなんて、嫌だよ。」

「大丈夫だよ、健太。じいちゃんは、いつも君のそばにいるからね。」

祖父は健太の頭を撫でた。

「そして、毎年、送り火を見上げれば、じいちゃんのことを思い出せるからね。」

健太は、祖父の言葉に少し安心した。

やがて、夜空に火が灯った。大文字、松ノ木、妙法、鳥居、船鉾の火文字が、夜空を鮮やかに照らし出す。

健太は、祖父と一緒に火を見上げながら、こう思った。

「じいちゃん、ありがとう。これからも、ずっと忘れないよ。」

送り火の炎は、夜空を高く舞い上がり、そして静かに消えていった。健太は、祖父の言葉を胸に、これからも強く生きていくことを誓った。

数年後、健太は大人になり、一人前の男になっていた。健太は、毎年、送り火を見上げて、祖父のことを思い出していた。

そして、健太自身も、いつかあの火の一つになることを知っていた。

しかし、健太は怖くなかった。なぜなら、健太は知っていたからだ。人は死んでも、大切な人の心の中で生き続けることを。

健太は、これからも強く生きて、周りの人々に幸せを与え続けることを決意した。そして、いつか、あの火の一つになり、あの世から健太を見守ることを夢見た。