「俺は小説家になる」と申しております

SPECIAL ORDER ～特別な注文～

SPECIAL ORDER ～特別な注文～
1.

雨上がりの薄暮れの中、一人の青年が古びた喫茶店に足を踏み入れました。

2.

青年は、スーツケースを片手に、どこか疲れ果てた様子でした。

3.

青年は、カウンターに座り、メニューを手に取りました。

4.

しかし、メニューには、何も書いてありませんでした。

5.

青年は、不思議に思い、店員に尋ねました。

「すみません、メニューに何も書いてないのですが。」

6.

店員は、微笑みながら答えました。

「こちらは、スペシャルオーダーのみ承っております。」

7.

青年は、さらに不思議に思いました。

「スペシャルオーダー？」

8.

店員は、説明しました。

「お客様の、特別なご要望に合わせて、料理や飲み物をご用意いたします。」

9.

青年は、しばらく考えました。

10.

そして、店員に言いました。

「そうですね。では、何か温かいものが欲しいです。」

11.

店員は、優しく頷きました。

「かしこまりました。では、何か特別な思い出はありますか？」

12.

青年は、少し考えてから、答えました。

「幼い頃、祖母が作ってくれた、クリームシチューが大好きでした。」

13.

店員は、メモを取りました。

「かしこまりました。では、クリームシチューをベースに、お客様の思い出を再現した料理をご用意させていただきます。」

14.

青年は、期待に胸を膨らませました。

15.

しばらくすると、店員は、一皿の料理を持ってきてくれました。

16.

それは、クリームシチューではなく、グラタンでした。

17.

青年は、不思議に思いました。

「あれ？クリームシチューではなく、グラタンですか？」

18.

店員は、微笑みながら答えました。

「お客様の思い出の中にあるクリームシチューは、グラタンだったのかもしれません。」

19.

青年は、グラタンを一口食べて、目を丸くしました。

20.

それは、まさに、幼い頃に祖母が作ってくれたグラタンの味でした。

21.

青年は、涙をこらえながら、グラタンを食べ続けました。

22.

グラタンを食べ終えると、青年は、店員に感謝の言葉を伝えました。

「ありがとうございました。本当に、特別なグラタンでした。」

23.

店員は、優しく微笑みながら答えました。

「こちらこそ、ありがとうございました。お客様の、特別な思い出をお料理に込められて、とても嬉しいです。」

24.

青年は、喫茶店を出て、夜の街へと歩き出しました。

25.

雨上がりの空には、虹がかかっていました。

26.

青年は、虹を見上げ、心の中で呟きました。

「ありがとう、スペシャルオーダー。」

27.

青年は、この日のことを、決して忘れないでしょう。

28.

それは、青年にとって、かけがえのない、特別な思い出となったのです。