「俺は小説家になる」と申しております

三文小説家

三文小説家

薄暗い雑居ビルの4階、雨漏りのする一室。机の上には空の酒瓶が積み重なり、灰皿には吸い殻の山。その中で、男は古びたタイプライターに向かい、一心不乱に文字を打っていた。

男の名は山田太郎。三文小説家と呼ばれる、この街の裏社会で生きる作家だ。彼の小説は、真実と虚構が入り混じった、底辺の人々の生き様を描いたもの。華やかな世界とは無縁だが、どこか哀愁漂うその文章は、熱狂的なファンを生み出していた。

今日も太郎は、締め切りに追われながら、新作の執筆に没頭していた。題材は、裏社会で暗躍するギャング組織の抗争。取材のために危険な場所に足を運んだり、関係者に話を聞いたり、時には脅迫を受けたりしながら、彼は物語を紡ぎ上げていく。

机の上には、メモ帳や資料が散乱し、壁には登場人物の相関図が貼られている。部屋は煙草の煙で充満し、酸素が薄い。それでも、太郎は気にする様子もなく、ただひたすらにタイプライターを叩き続ける。

夜が更け、街は静寂に包まれた。それでも、太郎の部屋からは明かりが灯り、彼の影が壁に映っていた。

数日後、小説は完成した。タイトルは「裏町の挽歌」。血と暴力、そして人間の欲望が渦巻く、壮絶な物語だった。

太郎は完成した原稿を出版社に持ち込み、いつものように担当編集者に渡した。編集者は原稿を読み上げ、感嘆のため息を漏らした。

「今回も素晴らしい作品ですね。山田先生は天才です。」

編集者の言葉に、太郎は苦笑いを浮かべる。

「天才だなんて、とんでもない。俺はただの三文小説家だよ。」

それでも、編集者の言葉は、太郎の心にわずかな光を灯した。

数週間後、小説は出版された。書店に並んだ「裏町の挽歌」は、たちまち話題となり、ベストセラーとなった。

名声や富とは無縁だった太郎の人生は、少しだけ輝きを取り戻した。しかし、彼は決して慢心することなく、今日もまた、新しい物語を紡ぎ始める。

彼の小説は、底辺の人々の苦悩や葛藤を描きながらも、どこか希望を感じさせる。それは、彼自身が人生のどん底を経験してきたからこそ、書けるものなのだろう。

山田太郎、三文小説家。彼の物語は、これからも続く。