「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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今日飲める酒も明日の分の酒も今日のうちに飲んでしまう

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「んっ……! ぁ……っ!!」
「あやと……っ、あやと……さ……んっ!」
「や……っ……ぁ」

 がっつくなって……と、ホテルの部屋のドアをあけた瞬間に引きこんでキスするのを制された。
 数回キスをして目を見合わせて。濱口は、うう、と少し耐えると、苦笑いをこぼしている奥村を部屋の中へと案内するよう手をひく。ジャケットを預かってそれをハンガーにかけていると、奥村が濱口の腕を引き、それを抱き締めてくる。一方の濱口は、彼の細い体を大きなベッドに押し倒す。奥村は靴を蹴り出して、必死になっている恋人の顔を見て笑った。

「ひでえ顔。欲望まるだしってかんじ」
「だって……っ! あんなに煽られて、オレ……っ、い、一時間が長くて……!」
「うん、ごめん」
「礼人さん、こんな良い部屋とって、どうした、の……?」
「……んーー……」

 自分へのご褒美? と困ったように笑う恋人は、くすくす笑いながら濱口のネクタイに手をかけた。奥村のとっていた部屋はジュニアスイートで、無駄に広い。やたらと広い。濱口が風呂を見て、これはラブホ並み……と感動したくらいには広かった。そこで無駄な妄想をして時間をつぶしていたくらいだ。

「やっと、今日で仕事の目処ついたし……」
「う、ん」
「明日も明後日も休みだから……な」
「えっ、どっちもなんだ? 久しぶりの休み……」
「……ああ。……だから、お前とずっと一緒に居たい」

 そっと手を濱口の頬にかけた奥村は、濱口をじっと見つめると、悪かったな、と苦笑いをこぼした。

「会社で……あんなことして……」
「っ! い、いいって!! 嬉しかったし、オレ……っ!」
「うん……なあ……」

 ねだるように目を閉じられ、濱口はその唇を自分のそれで塞いだ。舌をあわせ、それを吸い、言葉を飲み込むようにキスを繰り返す。はあっと小さな息を吐いた濱口は、ぐいっと自分の頬をつねって痛みを確かめた。

「……何してんだ、お前……」
「だって! 夢だと困るから!」
「なんだよ、それ」
「オレ、礼人さんとできなくて、ずっと夢で……夢で礼人さんとヤってました、ごめんなさい!」

 夢の中でぐちゃぐちゃにしちゃった……どうしよう、と濱口はあまりの状況に混乱しているのかそんなことを暴露してしまう。奥村は一瞬きょとんとした後、あははっ! と珍しく声をあげて笑った。

「なんだよ。謝るくらいのことしてたのか……?」
「いや……その……今日してもらった……こと、とか」
「会議室で口で?」

 そう言って面白そうにその仕草をするのは随分と意地が悪い。

「……うう……デスクに押し倒したりとか……色々……です」

 すみません……と濱口は項垂れるが、奥村は珍しく笑ったままだ。少し意地の悪い笑みを浮かべ、流すような視線を眼鏡の奥から送ってくる。

「オレ、基本的に仕事のことが頭からはなれねえから……」
「?」
「……今日は全部忘れて、お前のことだけ考えてーんだ。……ぐちゃぐちゃにしてくれていいぜ?」
「っ!!!?」

 礼人さん……と呼ぶ声が掠れそうになる。濱口が何もできず震えていると、奥村は困った表情を見せ、とりあえずこれ、とネクタイに指をかけた。

「オレが外した方がいいの? ……お前がほどきてえの?」

 そう訊かれた瞬間に、濱口は奥村の体をベッドに深く沈み込ませるように押し付けた。
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