「俺は小説家になる」と申しております

九段理江さん「東京都同情塔」

芥川賞受賞、おめでとうございます。

九段理江の「東京都同情塔」は、2023年12月に新潮社から刊行された小説です。ザハ・ハディド設計の国立競技場が完成し、犯罪者は「同情されるべき人々」という言説が広がったもう一つの日本を舞台に、建築家・牧名沙羅の葛藤を描いた作品です。 


牧名は、犯罪者に対しても同情すべきという考えに強く反対する建築家です。しかし、新しく建てられる刑務所「シンパシータワートーキョー」の設計を任され、仕事と信条の乖離に苦悩します。

物語は、牧名がシンパシータワートーキョーの設計に携わる中で、さまざまな人々と出会い、考えを改めていく様子を描いています。

小説のテーマは、正義と寛容のバランスです。牧名は、犯罪者に対しても同情すべきという考えに反対しますが、それはあくまでも「正義」に基づくものです。しかし、シンパシータワートーキョーの設計に携わる中で、寛容の重要性も理解していきます。

また、物語は、現代社会の矛盾も鋭く描いています。犯罪者に対しても同情すべきという言説は、一見すると寛容のように見えますが、一方で、犯罪を容認するような傾向も生み出しています。

「東京都同情塔」は、正義と寛容のバランス、そして現代社会の矛盾を問いかける、意欲的な作品です。