シャーデンフロイデ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
1 / 4

シャーデンフロイデ

しおりを挟む
シャーデンフロイデ

「君との婚約を、今日限りで破棄する。」

あの日、目の前に立つ婚約者エリオットの冷たい声が私の人生を一変させた。貴族である私、リディアは、突然すべてを失った。彼の背後には、エリオットの新たな婚約者となる公爵令嬢クラリッサが、勝ち誇った笑みを浮かべて立っていた。

「ごめんなさいね、リディア。でもこれが運命よ。」

運命だなんて、ただの裏切りだ。家族に戻ることもできず、私には故郷から追放されるという道しか残されていなかった。絶望に押しつぶされそうになりながらも、私の心の奥底で何かが変わった。

「いつか、必ず見返してやる。」

あれから10年。私はその決意を胸に抱き、商業の世界に足を踏み入れた。追放された地で、商人として一歩一歩成功を収めていった。最初は些細な取引から始まったが、やがてその規模は大きくなり、私の名は瞬く間に広まっていった。

「リディア、次の取引は南の港で大きな商談があるらしい。参加してみたらどうだ?」

側近のイーサンが報告してきた。彼もまた、私と同じように追放された身の上だったが、今では私の右腕として頼りにしている。

「そうね。私たちの商会がさらに大きくなるチャンスだわ。」

私たちは、今や大陸でも指折りの商会を率いる存在となっていた。貴族の名前も、名誉も、何もかも失った私だったが、その代わりに自由と自分自身の力で築き上げた成功があった。

そして、その成功が10年越しに私をかつての故郷に呼び戻すことになるとは、皮肉なものだ。

ある日、私は大商人として招待された舞踏会に出席することになった。その会場には、かつて私を追放した彼ら、エリオットとクラリッサがいた。彼らの顔にはかつての余裕はなく、むしろ焦燥感さえ漂っていた。

エリオットが私に気づき、言葉を失っている。彼のそばで立つクラリッサは、見たこともないような硬い表情をしていた。

「リ、リディア…君が…ここに?」

「ええ、大商人として招待されたのよ。10年前のことはもう気にしてないわ。」

私は微笑みながら答えたが、胸の奥では冷たい感情が渦巻いていた。これが「シャーデンフロイデ」、他人の不幸を喜ぶ感情というものなのだろうか。彼らが私を裏切り、追放し、今その結果に苦しんでいる姿を見て、私は一瞬だけ満足感を覚えた。

だが、それはすぐに消え去った。私はすでに彼らとは違う場所にいるのだ。過去の恨みに執着する必要はもうない。

「クラリッサ、もうすぐ舞踏会が始まるわよ。」

そう言いながら、私は彼らに背を向けた。私には、今や自分の人生を豊かに彩る新たな道がある。商会の仲間たち、そして私の成し遂げた成功。それがすべてだ。

エリオットとクラリッサがどうなろうと、もう私には関係ない。彼らが私を追い落としたことで、私は強くなったのだから。

「リディア様、準備が整いました。」

イーサンが近づいてきて、微笑んだ。彼もまた、この10年間で多くの苦難を乗り越えた仲間だ。

「ありがとう、イーサン。これからも一緒に進んでいきましょう。」

「もちろんです、リディア様。あなたと共に。」

そして私は、かつての自分に別れを告げ、新たな未来へと歩み出す。もう、過去に縛られることはない。私が築き上げたものは誰にも奪えないのだから。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?

ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。 妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。 そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

気弱な公爵夫人様、ある日発狂する〜使用人達から虐待された結果邸内を破壊しまくると、何故か公爵に甘やかされる〜

下菊みこと
恋愛
狂犬卿の妻もまた狂犬のようです。 シャルロットは狂犬卿と呼ばれるレオと結婚するが、そんな夫には相手にされていない。使用人たちからはそれが理由で舐められて虐待され、しかし自分一人では何もできないため逃げ出すことすら出来ないシャルロット。シャルロットはついに壊れて発狂する。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...