150円の幸せ

春秋花壇

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わーい、150円の幸せ

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「わーい、150円の幸せ」

わーい、150円の幸せだ。インターネットカフェの一角に置かれた自動販売機で、カップヌードルを買った。150円。高級な料理でもなければ、特別な何かでもない。だけど、この150円が、今の私にとって何よりのご褒美だった。

精算機にコインを入れた時、カチンと音がして、カップヌードルが静かに出てきた。手に持つと、ちょっと温かい。その小さなプラスチックの容器が、まるで宝石のように感じられた。蓋を開けると、中には乾燥した具材が少しだけ顔をのぞかせている。エビ、ネギ、卵。それぞれが控えめに、けれども主張しすぎず、整然と並んでいる。

カフェの片隅に置かれたお湯のサーバーの前に立ち、お湯を注ぐ。カップヌードルが少しずつ満たされていく音が、心地よい。お湯がカップの中に注がれると、乾燥した麺が少しずつ膨らみ始め、ふんわりと湯気が立ち上る。ほっこり、ふんわりと、白い湯気がカップの縁からあふれ出て、静かに上へと消えていく。その瞬間、私は自然と笑顔になっていた。

3分待つ。この3分間は、何も急がず、ただ待つだけの時間。普段、せわしなく動き回る私にとって、この3分は貴重な「止まり」の時間だ。スマホも、パソコンも一旦閉じて、ただじっとカップヌードルを見つめる。その間、何かしら考えることはある。次にやるべきこと、未処理のタスク、メールの返事。しかし、この3分だけは、それを忘れられる。

3分が過ぎる頃には、カップの中の具材たちは完全に蘇り、麺もいい具合にほぐれている。私は蓋をそっと開け、箸を持って少しだけ麺を持ち上げる。熱々の麺から湯気が立ち上り、まるでカップの中から命が吹き込まれたかのようだ。

「いただきます」

熱い湯気に顔を寄せながら、麺をすする。口の中に広がるあの独特の塩気と、ほんのりとした出汁の風味。エビのぷりぷりした食感と、ネギのシャキッとしたアクセント。これこそが150円の奇跡だ。小さな幸せが口の中に広がり、私の心は温かく満たされていく。普段は忙しさに追われ、食べることさえ急いで済ませる日々。だけど、今この瞬間、私は何もかも忘れてただ「味わっている」。

人生にはこんな小さな幸せがたくさん転がっている。高価なものじゃなくても、派手なことじゃなくても、心を満たしてくれる瞬間がある。それを見つけることができれば、毎日がちょっとずつ豊かになっていく。カップヌードルをすすりながら、そんなことを考えた。

「アウトプットばかりでも、たまには自分に小さな幸せを発信してもいいよね」と、私は思った。私たちは、日々の生活でたくさんのものを消費している。仕事にエネルギーを注ぎ、家族や友人に愛情を注ぎ、時には自分自身にも無理を強いることがある。でも、こんなふうに、たった150円のカップヌードルが心を満たしてくれる瞬間もあるんだ。

インターネットカフェの静かな空間で、私は一人、ヌードルをすすりながらその幸せを味わった。ふと周りを見渡すと、誰もがパソコンやスマホに夢中で、私と同じように小さな幸せを見つけている人はいないようだった。それでもいい。私はこの瞬間を大切にしたい。

お腹が温まると、少し心も軽くなった。些細なことだけど、こういう瞬間があるから、また明日も頑張れるんだろうなと思う。人生は確かに大変だし、時には苦しいこともある。でも、だからこそ、こういう小さな喜びが大切なんだ。何か大きな成功や高価な贅沢品じゃなくても、日々の中で見つけられる幸せが、結局は人生を豊かにしてくれるんだろう。

私はカップを空にして、そっとテーブルに置いた。最後の一口が終わった瞬間、胸の中に少しの寂しさが残った。でも、それもまた一興。この150円の幸せを味わったことで、次の小さな幸せがまたどこかで待っていると信じることができる。

カップヌードルを片付け、再びインターネットカフェのブースに戻る。画面にはいくつもの未処理のメールが並んでいる。現実がまた押し寄せてくるけれど、心の中にはまだ、さっきの温かさが残っている。それだけで、十分だった。

「いつもありがとうございます」

そう心の中で呟きながら、私はまた日常に戻っていく。小さな幸せを噛みしめて、生きることの意味をもう少しだけ深く理解できた気がする。








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