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仮面の裏に潜む真実

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「仮面の裏に潜む真実」

エリオット・バートランドの足元に広がる街並みは、魔法と機械が共存する稀有な光景を作り出していた。レンガ造りの建物が立ち並ぶ中、蒸気を吐き出す鉄の馬車が行き交い、空中には魔法石で動く輸送艇が浮かんでいる。街は忙しなく動き、空気には錆びた金属の匂いと魔法薬の甘い香りが入り混じっていた。

この世界、アークナイト連邦では、魔法と科学が対立することなく調和を保っていた。連邦議会の指導の下、錬金術師と機工技師たちが協力し、人々の生活を豊かにする技術を生み出していた。しかしその裏には、魔法を使う貴族と科学を信奉する平民の間に、見えない壁が存在していた。

エリオットの父は、連邦議会の有力者であり、科学派と魔法派をつなぐ架け橋として尊敬を集める人物だった。エリオット自身も、父の影響を受けて公平な世界を目指し、若くして外交官として活躍していた。だが、その理想は現実の複雑さに揉まれるたび、少しずつ揺らいでいた。

「リリアンヌ・カヴェンディッシュ――」
エリオットは窓辺に立ちながら、彼女の名前を呟いた。彼女は魔法派の中でも特に冷徹と評される貴族であり、誰もが恐れる存在だった。だが、彼女の心の中に何が潜んでいるのか、エリオットには未だ掴めない。

彼女の家系であるカヴェンディッシュ家は、魔法を通じてこの世界を支えてきた名門だった。特に、魔力を無限に増幅できると言われる「エーテルの核」を開発したのが彼女の一族である。しかし、その力は危険も孕んでいた。エーテルの核は、過去に起きた戦争で一度暴走し、都市を一つ消し去ったという噂がある。そのため、連邦議会では長年、その研究の是非を巡って議論が続いていた。

一方、リリアンヌは自室の鏡の前で静かに佇んでいた。彼女の部屋は、魔法石で灯された淡い青い光に包まれ、壁には彼女の祖先たちの肖像画が飾られている。

「エリオット・バートランド……」
彼女もまた、彼の名前を呟いた。

彼女は心の中で何度も問いかけていた。自分の行いは本当に正しいのだろうか、と。彼女がヴィクター・モンフォール卿と密談したのには理由があった。それは、エリオットが知らないこの世界の裏側に関わる重大な秘密を知ってしまったからだ。

「魔法も科学も、すべては支配の道具……」
リリアンヌの声は冷たく響いた。

翌日、エリオットはリリアンヌとの会談を求めて、彼女の邸宅を訪れた。応接室で待つ彼の前に現れたリリアンヌは、相変わらず無表情だったが、彼女の瞳の奥にわずかな揺らぎを感じ取った。

「何の御用ですか?」
彼女は冷たく問いかけた。

「リリアンヌ、君に聞きたいことがある。君はこの連邦がどうあるべきだと思っているんだ?」

その問いに、リリアンヌは少しだけ目を見開いた。だが、すぐに無表情に戻ると、椅子に腰掛けて淡々と答えた。

「この連邦は腐っています。魔法も科学も、権力者たちが自分の利益のために利用しているだけです」

「だからといって、裏切りで何が変わる?」
エリオットの言葉に、リリアンヌは少しだけ眉を寄せた。

「裏切りではありません。私は正しい選択をしているだけです」

「君が正しいと思うその選択が、この世界を救うと本気で思っているのか?」

その瞬間、リリアンヌは静かに立ち上がった。彼女の背後に飾られた祖先の肖像画が、魔法石の光を浴びて不気味に輝いていた。

「エリオット、あなたにはまだわからない。この世界はもう一度壊されなければならないのです。そして新しい秩序を作らなければ、私たちは永遠にこの腐敗した現実に囚われ続けるだけ」

彼女の言葉には、確固たる信念が込められていた。だが、その信念の裏に隠された痛みをエリオットは感じ取った。

「それでも、君は間違っている。俺は君を止める」

「止められるものなら、どうぞ」

リリアンヌは薄く微笑むと、エリオットを挑発するような目で見つめた。その微笑みの裏にある真実を知るためには、エリオットは自分自身を試されることになるのだろう。

街の片隅では、エーテルの核に関する研究が再び進められていた。人類の希望となるのか、それとも破滅をもたらすのか。エリオットとリリアンヌの運命は、この世界の未来そのものに関わる大きな鍵を握っていた。

物語の舞台となるアークナイト連邦は、今まさに揺れ動いている。果たして、二人の選択がどのようにこの世界を変えていくのか――それはまだ誰にもわからなかった。







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